『友人関係』
「どうして貴女は、わたしを警察に突き出さないの?」
明かりの点いていない部屋の中で、窓に当たる雨の音が響き渡る。
その雨音が響く部屋の中で、彼女はそんな問い掛けを口にしていた。
「……」
「答えられないのかしら?暗殺に特化するおうに育てられた女の子が、一般人である貴女の考えなど理解出来ないという前提があるからかしら」
そんな事を言う彼女を前にして、柊美久は視線を逸らす事は無かった。
警戒もしていないし、怖がってもいない様子のまま……いつも通りに笑みを浮かべる。
「理由が知りたいなら簡単な話だよ?」
「そうなの?」
「はい。私がレイフォードさんを突き出さない理由は、私とレイフォードさんが友達という間柄だからです」
「……は?」
ニッコリと笑みを浮かべた彼女が言い放ったのは、在り来たりな普通の理由だった。
そして言われたその一言は、頭上に『?』マークが数十個浮かぶ程に理解が出来なかった。
「そ、それだけの理由で……貴女、正気なの?」
「うん。だって友達が困ってたら助けるのは普通だし、レイフォードさんは悪い人じゃないよ」
「それは詭弁だわ。わたしは悪い人間だもの」
「ううん、良い人だよ?だってレイフォードさん、私と遊んでくれたから」
美久の言葉を聞いた瞬間、目を見開いて口が勝手に開いた。
「馬鹿なのかしら?わたしがたった数回遊んだだけで?友達?冗談じゃない」
「……」
「だってそうでしょう?貴女はわたしの事を知らないし、この先も知る事は無いわ。何故なら、貴方は近い内に死ぬからよ」
「それは私が、レイフォードに殺されるから?」
「ええ、そうよ」
彼女は目を細めて、冷たい瞳をして答えた。
だがそんな彼女の答えを聞いても、柊美久という少女の意志は固かった。
「じゃあ、待ってるよ」
「っ……」
「私、待ってる。レイフォードさんが私を殺しに来るの、待ってるよ」
「……貴女、わたしが怖くないの?」
一歩、彼女から離れて出た言葉。
その問い掛けを聞いた彼女は、真っ直ぐに見つめて答えるのだ。
「怖くないよ。だって、友達だから」
「っ……!?」
ズキンと痛みが走り、彼女との記憶が再生される。
全てが灰色だった映像が、徐々に色が付いて思い出していく。
振り返り、繰り返し、そしてまた増えていく。
忘れない限り消す事の出来ない記憶は、世間ではこういうのだろう。
「――思い出。……私はレイフォードさんと出会えて嬉しいし、この先も仲良くしていきたいよ?だからもし、それでも私を殺さなくちゃならないんだったら。レイフォードさん、ずっと友達で居るって約束して欲しいの。私はレイフォードさんとの思い出を嘘にしたくないから」
「……貴女はどこまで、はぁ……呆れたわ。貴女、お人好しって言われない?」
「うん、良く言われる。えへへ」
「褒めて無いわ。……ったく、仕方が無いわね」
「???」
溜息混じりに差し出された手を見て、彼女は首を傾げていた。
差し出した自分で頬を赤くしながら、彼女を見つめて言うのである。
「改めて、キリカ・レイフォードよ。後、普段通ってるのは霧華っていうわ。覚えててくれるわよね?友達なのだから」
「……うん!忘れないよ!絶対っ」
そう言って彼女たちは、互いに笑みを浮かべながら握手を交わした。
雨音が響き渡る中で、彼女たちは本当の意味で友人になったのである。
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