『ゴーストと呼ばれた少年』
「……」
「…………何しに来たんだ?オレに何か用か?」
霧華が柊美久の家で看病されている間、彼はレンと名乗る少年の元へ向かっていた。
通行人の姿が見えない深夜。彼らは誰も居ないヘリポート上で対峙しているのであった。
「どうして無意味に殺したんだい?キミの目的は霧華だろう?」
「霧華?……あぁ、あいつはそういう名前になったのか。あの時に名乗らなかったのは、単に名前が無かったってだけか」
「ボクの質問に答えてくれるかい?生憎と無駄な時間を過ごす趣味は無いんだ」
「オレが素直に質問に答えるような人間に見えるのか?」
「……見えないね」
レンの言葉に納得する彼だったが、質問の趣旨を変えて問い掛けた。
その問い掛け方は、交渉という言葉を投げるのではなく暴力での交渉だった。
距離と詰めるように駆け出した彼の動きを読むように、レンは笑みを浮かべてナイフを取り出す。
「……無駄。オレにあんたの体術も殺傷術も通じない」
「――ボクの事を調べたのかい?」
「あぁ。同業者で知らない者は居ないっていうぐらいの情報で、あんたの事を調べてたら出て来たよ。ただその情報は全てブラフで、本当の情報を選別するのに骨が折れたけどな」
レンの言葉を聞き、彼は目を細めてナイフを逆手に持つ。
軽くステップを踏みながら、レンの体格などの情報を脳内に取り込んでいく。
そしてステップで着地した瞬間、再びレンの元へと駆け出してナイフを振るう。
「だから無駄だってば。あんたの事を調べた結果、興味深い記事を見つけた。内容はこうだ。――『発見、ダムの中に沈められた水死体。その数はなんと百体以上』ってな。かなり面白い記事だったから調べたら、ある人物を特定出来たんだよ」
「……あはは、それがボクだという保証はどこにも無い。明後日の答えが出ている時点で、キミの負けだ。キミはボクの事について、何も情報を得ていない」
ナイフを衝突させながら、火花を散らす中で会話をする彼ら。
だが彼の言葉を聞いた途端、ニヤリと笑みを見せたレンは言うのである。
「そう急かすな。重要なのはこの水死体の発見場所ではなく、これを発見した人物だ。どうして誰も立ち寄る事の無いダムなんかに行って、水死体を見つける事が出来たのさ」
「……」
「答えは簡単だ。殺して、沈めて、見つけるまでがあんたのやり方だからだ。そうだろう?暗殺者のゴーストさん」
――ゴースト。
その名を聞いた彼は、逆手に持ったナイフをくるくると手元で遊ばせる。
やがてチャキンと音を立てて止めると、彼は思い切りレンへとナイフを投げた。
「おっと……それが当たると本気で思ってるのか、よ?(姿が消えた?どこに?)」
『暗殺者ゴースト、ね。確かにボクがそう呼ばれていた時代もあったけれど、それはもう昔の話だ』
「……」
ヘリポート上に彼の姿が見えないが、声が響くようにレンの耳に入る。
まるでその辺一帯が霧でも掛かっていると錯覚してしまう程、彼の姿を確認出来ないで居た。
靴音が反響するはずの無い空間で、反響している時点で不可解な状態。
――チャキ。
「っ……!?」
だがやがてレンの首元には、冷たい感触が添えられるのであった――。
「味わってみるかい?かつてのボクのやり方を」
「……っ」




