『探し者』
あのニュースを見た瞬間、過去の記憶が視界を覆い尽くした。
かつて自分が暮らしていた孤児院の中で、私と共に暮らしていた子供。
孤児院の中には他の子供の姿もあったのだが、一番会話をしていたのがあの者たちだけだ。
その所為か、容姿を含めて声も良く覚えている。
「……」
一歩、また一歩と街中で歩を進めて行く。
朝のニュースで報道された場所へと向かうと、多くの人間が野次馬となっていた。
そんな様子を眺めながら、私は周囲の様子を確認した。
「……(どこに?)」
恐らく、この場所で誰かを殺した犯人は近くに居るはずだ。
私の知っている彼の性格上、きっと何処かで様子を伺っているはずなのだが……。
「…………」
周囲の人間から怪しまれないように、細心の注意を払って付近を出歩く。
だがしかし、彼の姿は何処にも無い。見当たらず、何処にも存在しない。
いくら遠くから見ていたとしても、殺意があれば判別出来る自信があったのだが……。
それでも、見つける事は出来なさそうだった。気配どころか、そんな視線も感じない。
普通なら引き返して、作戦を考えるべきなのだろうが……今はそんなつもりも無い。
「(早く見つけて殺さないと……彼を生かしておく訳にはいかない)」
そうなのだ。生かしておく訳にはいかない。
任務であれば作戦を練ってから、しっかりと最期まで殺すつもりだった。
だけれど、私は今すぐにでも彼の事を見つけたかったのだ。
「……ん?携帯が……」
私のスカートのポケットの中で、微かに何かが震えている感覚が肌に伝わる。
ポケットに手を入れてみると、そこには主人から渡された携帯電話が震えていた。
長い様子を見ると、メールではなく着信なのだろう。
私は、その携帯を開いて画面に視線を送った。だが……。
「???」
そこには、知らない電話番号が映し出されていた。
主人の番号でも、マリアの番号でもない知らない番号。
その番号をしばらく眺めていたが、私は出なくてならない気がして受話ボタンを押した。
『やぁ、もしもし?久し振りだねぇ、元気だったかい?』
「っ……」
『そんな周囲を警戒したら、暗殺を生業としてるオレたちは失格だぜ?』
「用件は何?」
『急かさないでくれよ。せっかくの再会じゃないか。会話を楽しもうぜ?』
「ふざけないで。貴女はどこに居る?答えて」
私のそんな問い掛けを聞いて、小さく鼻で笑った声で彼は答えた。
『ハッ……誰が好き好んで、自分から居場所を教える奴が居るんだよ。オレを殺したいなら、さっさと見つけるんだな?』
「待って!」
『今回は挨拶だけだ。――』
ピッという音が耳元で響き、通話状態が終了状態となった。
私は自分の携帯電話の画面を見つめながら、また改めて彼を見つける事を誓うのだった――。




