『孤独と不安』
「……殺さなきゃ、殺さなきゃ……」
霧華は暗い部屋の中で、虚ろな瞳をしたままそう呟き続けている。
そんな様子を心配そうに扉の隙間から見つめ、マリアは困り果てていた。
だがその困っている内容は、彼女が虚ろな瞳をしているからではない。
「……お姉さまの役に立つ。それが私がここに居る理由……あの人の為に出来る事は?」
自問自答を繰り返す。
その自問自答の中で、霧華と初めて出会った時の事を思い出す。
彼女にとっての始まりであり、マリアの新しい人生の扉が開いた瞬間だった。
ならその場所へと居続けるには?その方法を探る為、彼女は霧華の傍に居座る事を決めた。
「……どんな事をしても、私はお姉さまの右腕となる。たとえその腕を切り落とされれば足を差し出す。足を切り飛ばされれば目を……目が抉られれば私の頭脳を差し出すだけ。ただ隣に居る事が出来るのであれば、私はこの命を一生捧げる事を誓った」
その誓いをどう証明するのか、それに対してマリアは思考を働かせる。
これからも彼女と、霧華という存在の影で在りたいが為に……。
「――整いましたわ。お姉さま、今宜しいでしょうか?」
「……」
扉をノックし、閉まっている扉の奥からの返事を待つ。
だがそこで、マリアは一つの違和感を感じた。それは……。
「(私、扉を閉めました?)」
自分で扉を閉めたかを思い出せず、マリアの思考は停止し始めていた。
それは何故か、もしこの部屋の中に彼女が居なかったら?
そんな事を考えた瞬間、マリアは慌てた様子で扉を思い切り開けた。
「……お姉さまっ!!」
真っ暗な部屋。カーテンの隙間から明かりが見える。
だがその明かりを利用したとしても、見える視界のどこにもそれは存在しない。
彼女……霧華の姿はどこにも見当たらない。
「お姉さまっ、何処へ?」
彼女の姿が遠くなる様子が頭を過ぎり、マリアは目を見開いて寮の外へと飛び出す。
メイド服のまま、我を忘れた様子で学園の敷地内からも飛び出して街へと出た。
意識を集中させて、ただ一人を探す為に目を凝らして街を駆ける。
「はぁ、はぁ、はぁ……(お姉さま、どちらに。どこに居ますかっ?)」
不安。マリアの精神を徐々に侵食する感情の名である。
その感情が徐々に彼女の思考を鈍らし、やがてまともな判断力が出来なくなる。
街中でたった一人を見つけるというのは、情報の有無で差は大きく開いてしまう。
そんな簡単な基礎情報すら、もう既にマリアの頭の中には存在しないだろう。
「(お姉さま、お姉さまっ……どこへ?どこにいるのですか!私を、マリアを一人に……独りにしないで下さいっ!!!マリアはお姉さまと、お姉さまと一緒にっ――)っあ……!?」
不安という感情が限界に達し、マリアはその場で蹴躓いてしまう。
倒れたままマリアの頭の中には、『独り』という言葉が埋め尽くされていく。
霧華の姿が離れていき、頭の中ではゴチャゴチャになりつつあったその時だった。
『どうしたんだい?キミが一人で居るなんて、珍しい状況じゃないか。いつもは彼女にべったりなのにさ』
「……?」
誰の声かと思いつつ、聞いた事のあるような声に顔を上げたマリア。
そこには、霧華の主人である彼女と共に行動する少年の姿があったのである。




