『裏とメイド』
シャワーを浴びていた瞬間だった。
霧華の視界がグラリと揺れ、意識が遠くなる感覚に襲われる。
だが倒れる寸前、壁を利用して倒れるのを未然に防いだ霧華だったが……。
「さて、わたしのご主人様の悩みを解決しなくてはなりませんね。フフ」
彼女が姿を現し、霧華という人格は心の奥へと眠りに入った。
表へと姿を現したキリカは、ニヤリと笑みを浮かべて浴室から出て少女の下へ向かう。
部屋の奥では、夕食の準備をしているマリアが鼻歌混じりに料理をしている姿があった。
「マリア……今日は何をご馳走してくれるのかしら?」
「お、おおおおお姉さまっ!?いいいいいいきなり何を!?」
激しく動揺したマリアだったが、霧華の様子で違和感を感じた。
その違和感を払拭する為、タオル一枚に包まれている彼女の事を投げて言った。
「あ、貴女は誰ですか?前にもお会いした気がしますが……今日こそは逃がしませんわよ」
「あら、包丁をこちらに向けないでくれるかしら?行儀以前の問題で、マナーが悪いわよ?マリア」
「お姉さまの声で、お姉さまの顔で……私を誘惑した罪は重いですよ?」
「あらあら……思ったよりも警戒されていてショックだわ。前はキスをされて喜んでいたというのに」
「なっ……あ、あああの時は、私が正気を失っていただけです!今回は、冷静!そう、冷静ですからっ!別にお姉さまのバスタオル一枚で抱き着かれてラッキーとか思っていませんわ!――っ!」
マリアは自分で言った口を塞いで、ハッとした様子でキリカの事を見た。
だが塞いだ所で時は既に遅く、キリカはニヤリと笑みを浮かべてマリアを眺めていた。
その表情は悪戯好きの子供のように、そして玩具を見つけたように高揚した様子だった。
「マリアは可愛いわね。わたしのご主人様も、そんな可愛い貴女だからこそ……あの時に助けたのでしょうね」
「……褒めても何も出ませんよ」
「そうなの?別に今なら、普段頼めない事を頼んでも良いのよ?わたしはマリアとなら、キスのその先もしても良いと思っているのだから」
「キ、キキキキキスの先もっ、ですって!!!???」
驚愕の事実を知ったという表情が、マリアの思考を停止へと誘う。
想像が妄想となり、やがて理想となって夢想していくマリア。
だらしない表情を浮かべそうになったマリアだったが、咳払いをして誤魔化して言った。
「べ、別に何もありません。さ、さて……お姉さまでない貴女が、私と話すという事は何かあるのでしょう?まずはそれを話してもらっても?」
包丁を台所に置いて、エプロンを外しながらマリアはそう言った。
その言葉を聞いたキリカは、また小さく笑みを浮かべてマリアの事を見据えるのだった――。




