『その思考の先は?』
「じゃあ、また来るねっ。今日は楽しかった」
「ん、それは良かった」
入り口から手を振りながら、つま先を地面に突いて整えて美久は言った。
そんな彼女の言葉に返答する為、霧華は目を擦りながら返事を返す。
だがしかし、そんな彼女たちの会話を扉から覗き見ていた少女の姿があった。
「マリアちゃんも、またね」
「……ええ。程ほどに楽しめた事は肯定して差し上げますわ」
「うんっ、ありがと♪それじゃあね。また学校でね」
「ん」
小さく返事をして、寮を後にした美久。
そんな彼女の背中を見届けた瞬間、溜息混じりにマリアは愚痴を零した。
「全く、お姉さまは。どうするおつもりですか?」
「どうって?」
「彼女の事は、あの方には話すのですか?」
あの方、というのはジェシカの事だろうと霧華は理解した。
ジェシカは霧華の主であり、霧華にとっては親も同然の存在だと言えるだろう。
奴隷でありながら、娘として扱うジェシカの事を霧華は慕っている。
その事を知っているマリアだったが、今回の件については悩みの種があった。
それは、標的である柊美久と小さいながらも繋がりが出来てしまったからだ。
「どうしたら良いと思う?」
「……ノープランだったんですか、お姉さま」
「だって、こういうの初めてだし。私にも分からない事はあるし」
「では、とりあえずは保留に致しましょう。整理をしておきますので、お姉さまは引き続き任務に専念して下さい。ある程度の事は、私が考えておきますわ」
「ん、ありがとう、マリア。頼りにしてる」
「っ……」
霧華が小さく笑みを浮かべながら、マリアを真っ直ぐに見つめて言った。
その言葉にドキッとしたのか。マリアは頬を赤く染めて顔を逸らしながら口を開く。
「ま、まぁお姉さまに協力するのが私の仕事ですから?やるのは吝かではないですわ」
「じゃあ私は任務に支障が出ない程度で、立ち回ってみる」
「お願い致しますわ。くれぐれも、過度な接近に注意して下さいね?お姉さま」
「分かってる。それじゃ、私はシャワー浴びてくる」
「はい。私は夕食の準備をしておきますね」
「ん……」
霧華の背中を見送ったマリアは、鼻歌混じりに台所で準備をし始める。
だがしかし数秒後、鼻歌を止めてまな板に乗せた真っ赤な肉を見つめた。
「はぁ……お姉さまったら、困ったものですわ。これではジェシカ様に報告のしようがありませんわね。ふむ……仕方ありません。ちょっとした細工をする事に致しましょう」
何かを思い付いたマリアは、ニヤリと口角を上げて再び夕食の準備を始める。
その頃一方で、霧華は目を瞑ってシャワーを浴び続けていたのだが……。
「やれやれ。出番かしらね、フフ」
不適な笑みを浮かべている彼女の姿が、そこにはあったのだった――。




