『本気と書いて、マジ』
「……むぅ~~っ」
マリアは不機嫌だった。
頬を膨らませて、色の違う左右の瞳で霧華を睨む。
そしてその隣には、彼女たちが標的と定めている柊美久の姿があった。
「いつまで膨れてるつもりなの?マリア」
「お姉さま、どうして部屋に彼女がいらっしゃるのですか?」
「凄い固い言葉遣いだけど、どうしたの?」
「どうしたの?じゃないですよ!私はお姉さまの為を思って部屋へ招くのは駄目ですよ!と言ったのに、どうして部屋へ勝手に招いているんでしょうか?私に分かりやすく教えてくれませんか?お姉さま」
ズンズンと身を乗り出して、マリアは霧華に詰め寄った。
そんな彼女の状態を初めて見た霧華は、キョトンとした表情を浮かべていた。
何が何だか分からない。そんな事を思っているような表情だった。
「あ、あの~、やっぱり私が来るのはマズかったんですか?」
「……さぁ。マリアが文句言ってるだけで、私はどっちでも良かったけれど」
「さぁ、じゃありません!ちょっとお姉さま、こちらへ来て下さいまし」
マリアは霧華を手を引いて、部屋の外へと連れて出た。
取り残されてしまった美久は、嵐のように去って行ったマリアの様子に笑っていた。
「くすくす……お姉ちゃんが取られたみたいで、ヤキモチかな?だったらマリアさん、可愛い♪」
ただ一人、的外れな呟きを零しているのであった。
「良いですか?お姉さま。彼女は標的、それは理解していらっしゃいますね?」
「うん」
「では、その標的にお姉さまの正体がバレてはならない。それも理解出来ていますね?」
「……うん」
「どうして、間があったんですか?お姉さま」
ジト目を霧華へ向け、疑いの眼差しを向けるマリア。
そんな彼女から飛んでくる視線を逸らし、面倒そうに話を聞く霧華。
その様子をもし他の誰かが見れば、どちらが姉か妹かと区別が変化するだろう。
決して姉妹として潜入している訳ではないが、霧華が世話を焼き過ぎていている様子は微笑ましい。
そんな事を美久が思っているとは、彼女たちも知らないのだろう。
「……ねぇ、マリア」
「何でしょう。今回のお姉さまのミスを理解して下さったんですか?」
「理解はしたけど……ちょっと訂正があるかも」
「ほぉ~、訂正ですか。良いです、聞きます、どうぞお聞かせ下さい」
プンスカと不機嫌なマリアを放って置いて、霧華は彼女の居る部屋をチラリと見た。
その視線に気付いたマリアは、ムスッとした様子で身を乗り出して言った。
「また何か企んでいるのでしたら、今ここで吐いて頂けますか?あの方には言いませんから、私にはお姉さまの考えている事を把握させて下さい」
「じゃあ言うけど……美久は、私が殺し屋だって知ってるよ?」
霧華の放った一言で、その場の空気が一瞬で凍り付いた。
マリアの思考は停止して、霧華は首を傾げて頭を抱える彼女を見た。
そしてようやく理解をした彼女は、ジトっと霧華を見て言うのであった――。
「マジですか?お姉さま」
「本気と書いて、マジ」




