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【完結】奴隷少女は、笑わない  作者: 三城谷
第四章【血に飢えた少女】
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『終わりの始まり』

 「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」


 ――気持ちが悪い。


 単純に込み上げてくるその感情は、手元にまで感触が伝わってくる。

身体全体に寒気を及ぼす程の不快感を纏いながら、霧華は手に持ったナイフを握り締める。


 『さて第一段階終了だよ、お嬢ちゃん。次の場所へ移動しよう』

 「は、はい……」

 『初めてにしては上出来だ。良くやった』

 「……はい」


 そう言いながら笑顔を浮かべる彼は、ゆっくりと霧華の頭を撫でる。

その手には強さは全く無く、ただの良心という空気を纏っている。

だが彼女、霧華はその時に初めて知ったのである。


 ――人を殺した感触を。



 ……初めて人を殺した。

自分がした事を男は怒る事なく、私の頭を笑みを浮かべて撫でている。

そのまま手を引いて、『さぁ、次だ』と言って歩を進める。

私はそれに連れられて、様々な場所へと足を運んだ事を覚えている。


 『それからずっと、これを続けているのかしら?』

 「……うん。もう何人殺したか、私は記憶していない」

 『そう。だから――なのね』

 「え?」 

 『なんでもないわ?気にしなくて良い。さ、もう少し教えて?』

 「分かった。その後は……――」


 私は語り続けた。

姿の見えない人間からすれば、ただの独り言にしか聞こえない。

だけど私は、こんな風に長く人と話した事が無かったと思う。

マリアとも違うし、あの人とも違う。なんとなくだが彼女は……。


 ――キリカは私だから、思わず対等だと勘違いしてしまうのだ。


 

 『さぁ、次だ』

 「つ、次は何処に行くのですか?」

 『そうだな。次は少し、街へ行ってみよう。ここよりは、都会だと思うからお嬢ちゃんの服でも買ってみようか』

 「服……?私の?」

 『いつまでも孤児院でもらった服など、勿体無いだろう?好きな服を選びなさい』

 「……っ」


 彼の言葉を聞いた途端、霧華の瞳が揺れた。

やがて心底嬉しそうな表情で、彼に引かれた手を強く握って言った。


 「あ、ありがとうございますっ」

 『あぁ、良いよ』


 こんな親切な人が自分を見つけ、自分を引き取ってくれた。

そんな幸せで温かい空気を感じながら、霧華は微かに微笑んだように口角を上げた。

だが彼女は知らない。そして、知る事になる。


 『でもその前にだ。さぁ、着いたぞ。ここがお嬢ちゃんと暮らす家だ』

 「……っ」


 自分が踏み入ろうとしてる場所が、この世界から外れている事を。

このことわりから逸脱し、定められたレールの上を走らない者達。

そういう彼らが、霧華の人生に『希望』ではなく……。


 『絶望』を与える事を知るのであった――。

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