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【完結】奴隷少女は、笑わない  作者: 三城谷
第四章【血に飢えた少女】
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『体術訓練の末』

 孤児院での生活をし始めて数日が過ぎ、周囲との距離もだいぶ掴めて来た。

その少女は孤児院に入って間もないが、基礎体力を向上させる為の時間では優秀だった。

少女でありながら、対人訓練で男子に引けを取らない強さを持っている様子であった。


 『あの娘の様子はどうなっている?』

 『ええ、貴方の見立ては正しかったようですよ。かなり優秀な成績です。これならば、その時が来るのはそう遠くは無いでしょう』


 そんな大人たちの会話を知らない子供たちは、少女の運動能力に目を奪われていた。

ある者は褒め称え、ある者は逆に妬んで羨んでいた。だがそれは子供であるが故、仕方の無い事。


 「……おい、お前!」

 「ん……私?」

 「あぁそうだよ、お前以外を指差して話してると思うか?」

 「……そうね。私以外に誰もいない」


 少年はその少女を指差して、納得のいかない表情を浮かべながら口を開いた。

彼もまた、妬み羨んだ子供の一人だろう。それを証明するのは、彼自身である。


 「何かインチキしてるんじゃないだろうな?」

 「何の話?」

 「お前の訓練の成績だ!ゼッタイ女の動きじゃないぞ、それ!」

 「そんな事を言われても……」


 そう言われた少女は、困惑した様子で首を傾げる。

そんな二人の様子を見兼ねたのか、もう一人の少女がその輪に入る。


 「はいはい。レン、子供じゃないんだから、駄々を捏ねないの!」

 「なっ、ダダを捏ねてないだろ!」

 「捏ねてるわよ。ワガママって言った方がイイ?」

 「ぐぬぬ……だってさ、信じられないだろ?男よりも強い女とか、聞いた事無いぜ?」

 「私も知らない。けど、現にあの子が強いのは、皆が知ってる事。レンだけが言ってもしょーがないでしょ?」

 「ぐっ……わ、分かったよ。おい、お前!」

 「……?」


 再びレンと呼ばれる少年に指を差され、少女は首を傾げて彼を見る。

何かを思っている訳でもなく、彼が言っている事を分かっている訳でもない。

だが彼の言葉を聞く必要があると思い、少女は彼の言葉を待つのであった。


 「……次はゼッタイ、お前から一本取ってやる!覚悟しとけよ」

 「…………」


 フンと鼻を鳴らして、ドカドカと足音を立てて去っていく少年。

その少年の背中を眺める少女は、目を細めて自分の影を見つめていた。

それは夕暮れに染まる空の所為で、黒く濃いものとなっていた事に気付いた。


 『はい、皆さん。そろそろご夕食の時間ですよ』

 「…………(ご飯)」


 他の子供たちが『はーい』と言っている中で、少女だけは無言でシスターの下へと向かう。

ユラユラと揺れる自分の影に振り返るが、やがて何も考えていなかったように中へ入って行った。

この実技訓練が、彼女にとっての始まりだった思えるのは……遠くない日にあったのだった――。

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