『起床。そして着信』
カーンカーンカーンカーン……。
鳴り響いた鐘の音が耳に入り、目を擦りながら朝を迎えた霧華。
久し振りのベッドを味わった所為か、まだ少し眠気が取れないで居た。
「あ、起きたみたいだぞユキ」
「ホントだ。えっと、おはよう。そろそろ起きないと、シスターに怒られるよ?」
「…………?」
寝惚けた頭のまま、昨日までの出来事が整理されていく。
やがて頭の中での整理が終わった瞬間、霧華は一つだけ疑問に思った事を脳裏に浮かばせる。
「ん、どうしたの?」
「え、えっと……おはよう、ございます」
「うん、おはよう!」
「何だ、ちゃんと挨拶出来るんじゃねぇか」
「だから言ったじゃん。疲れてるだけだよって……」
自分の言葉が、彼らに差異も無く伝わっている。
その様子に驚きつつも、彼らの事を『日本人』とは思う事は無いだろう。
それは簡単な理由で、彼らの容姿を上から下まで見た結果である。
「……改めて、俺はレン。よろしくな」
自分に親指を立てて、名乗るように挨拶する少年。
彼はレンと呼ばれていて、その赤い目と灰色の髪は異様にも思える。
「私はユキだよ。よろしくね」
少し身を乗り出して、ニコッと笑みを浮かべる少女。
ユキと名乗るその少女は、鮮やかな金髪と緑色に輝く瞳をこちらへ向けている。
その二つの理由から、霧華は彼らの事を日本人とは思えなかったのである。
「よ、よろしくおねがいします……?」
霧華はそう言いながら、首を傾げて不安そうに彼らを見た。
そんな挨拶をしているうちに、彼らは『そろそろ行こうか』と言って霧華の手を引く。
「どこに?」
そう問い掛ける霧華に答えるようにして、レンとユキは顔だけを少し振り返らせて言った。
「お仕事だよ!」「仕事だぜ!」
外へ手を引かれたまま出ると、そこには武装したシスターが居たのだった――。
◇◇◇
『キリカさんは今まで、どこで何をしていたの?』
そんな質問をした事を思い出しながら、湯気に包まれた天井を仰ぐ。
肩まで沈ませて湯船へと浸かりながら、私は人生で何度かしか吐かないであろう溜息を吐いた。
これで何度目なのだろうと思いつつも、深い溜息を吐いて目を瞑った。
「キリカさん、困ったような顔してたなぁ。聞いちゃいけなかった事なのかなぁ。帰国子女さんだから、色々な事が聞けると思ったのになぁ。ちょっと残念……」
『美久~!いつまで入ってるの~!早く出て来て頂戴?』
「お母さん?……は~い」
浴室から向こう側へと届けようと、出来るだけ声を出して返事をした。
浴槽から身を乗り出して、水音を立てながら浴室から外へと出る。
微かに涼しい風が身体に当たり、タオルを巻いてドライヤーで髪を乾かす。
そんな事をしている最中だった。着替えの上に置いておいた携帯が震え出した。
私はその画面表示を見て、思わずその差出人の名を口にするのだった――。
「……レンくん?」




