『無愛想な少女』
微かに覚えている記憶の中で、幼い頃の私と同じぐらいの少年少女。
その彼らと出会ったのは、私が新しく暮らす事に初めての場所。小さな記憶。
どうしてこんなに曖昧に言うのかは、私自身がこの記憶に自信が無いからである。
『わたしか貴女の記憶。どちらの記憶なのか、それを心配しているの?』
「…………」
周囲が真っ暗な空間で、部屋の中でもない知らない場所。
グラグラと意識がグチャグチャになりそうなまま、私の目の前には同じ姿の彼女が現れた。
鏡合わせにしたように見える姿は、目を疑う程に瓜二つ。私の容姿そのままだ。
『あの子たちの事を覚えてるのなら、その話をわたしに聞かせて?もう少し貴女の話を聞きたいわ?』
「……私の、話?……これは、私の記憶?」
『そう。わたしの意識は、そこでは生まれてないわ。わたしの知らない記憶なのだから、少しぐらいは教えてくれても良いじゃない。ね?』
「…………分かった」
『じゃあ、聞かせて。まずは、その子たちが誰だったのか。――……』
――霧華が連れて来られた孤児院には、名前は無い。
家も親も持たない子供たちが集められ、そこで衣食住を共にしている場所だ。
他に誰かが居るという事を理解させるようにして、霧華の暮らす事になった部屋。
そこで、同じ年齢ぐらいの少年少女と出会ったのである。
「……だれ?」
霧華は首傾げながら、彼らにそんな事を聞いた。
至極当然な事なのだが、誰だか分からない事を直球に聞いてしまう。
それが当時の彼女であり、まだ無邪気だった霧華という証明かもしれない。
「ほら、レン。いきなり強いか?って聞かれたら、誰だってこうなるわよ」
「なっ、オレだけの所為なのか!?」
「当然よ。強いのか弱いのかとか、女の子に求めないで欲しいもん。ねぇ♪」
「…………?」
レンと呼ばれる少年の除け者にして、『ねぇ♪』と同意を求められても困る。
そんな事を思いながら、霧華はベッドへと入って寝転がってしまった。
その様子を眺めていたレンは、ムスッと表情を浮かべながら霧華の事を見た。
「疲れてるんでしょ?今日はゆっくりさせてあげようよ、レン」
「……女だからって挨拶をしないとか、れーぎ知らずなヤツ」
「……すぅ……」
彼らがそう話している間、やがて寝息を立ててしまった霧華。
そんな霧華を放って置いて、彼らも自分の布団の中へと潜り込んだ。
こうして霧華にとって、孤児院生活の初めての夜が過ぎていくのであった――。




