『幼き少女、孤児院へ』
自分のして来た事を思い出した時、生々しい感覚だけが蘇る。
それは『匂い』『感触』『雑音』……それらを含めたモノが頭の中で混ざり合う。
そんな事を思い出す度、私の喉の奥には胃酸が混ざった唾液が舌へと絡みつく。
「……はぁ、はぁ、はぁ……っ」
私の手を引いた彼が向かった先は、私と同じぐらいの少年少女が居た。
そこは孤児院のような場所で、私を含める全員が身寄りの無い子供たちという事らしい。
孤児院で働いているシスターを含めて、その場に居る人たちは柔らかい雰囲気を纏っていた。
『ではこの子を宜しくお願いします。後日、また伺いますので』
『はい。承りました。さぁさ、どうぞ入って?可愛らしいお嬢さん』
「…………(コクッ)」
幼い頃の私は少々人見知りがあり、男の後ろからシスターの様子を伺っていた。
やがて怯えながらではあったが、私はその孤児院の中へと足を踏み入れる。
すると男のお辞儀と共に動き出した扉は、ゆっくりと出口を閉じていくのである。
ニコリと笑みを浮かべて手を振る男を眺めていると、幼き私は違う人に手を引かれるのであった。
『さぁお嬢さん、お前さんの部屋はここだ。好きに使うと良いよ』
「……好きに?」
『あぁ、そうさ。今日からこの部屋とこの場所が、お前さんの暮らす場所だよ』
「…………ありがとう、ございます」
『今日はもう遅いから、もう寝ると良いよ。じゃあね、また明日』
「……おやすみなさい」
私がそう言うと、シスターはこちらを見ずに手を振って去っていった。
用意された部屋の中へと入ると、そこは二つの二段ベッドが両側に設置されている。
その中にある畳まれている布団があり、その布団の上には着替えも用意されていた。
「これに着替えれば良いのかな?」
一人でそう呟きながら、私は用意された服に着替えてボロボロの服を綺麗に畳んだ。
用意されていた布団はふんわりしていて、手や足を入れればすぐに温かくなっていく。
そう感じた私は、それだけで嬉しくなって笑みを浮かべていた。
「……」
『何を一人で笑っているの?』
「ひゃっ!?」
布団の温もりを楽しんでいた時、咄嗟に聞こえてきた声に驚いて声を上げてしまう。
自分でも出した事の無い声で、思いのほか受けた相手もびっくりしていたのに気付く。
だが気付いた事はそれだけではなく、後ろに立っていた人物の他にもう一人居る事に気付いた。
『お前が新しい奴か、なんか弱そうな奴だな』
『何を言ってるのよ、女の子なんだから当然でしょ?』
「…………?」
目の前に現れた少年と少女。
彼らはいったい誰なのか、そんな事を思った私なのであった――。




