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【完結】奴隷少女は、笑わない  作者: 三城谷
第四章【血に飢えた少女】
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『存在しない者』

 私は『霧華』と名乗ると言う事は、この身体にそのブランドが付く事だ。

この身体のまま『霧華』と名乗れば、その名前がずっと未来にまで影響を及ぼす。

つまりはそういう事を言いたいのだが、上手く伝える事が私には出来ない。


 「……」

 「どうしたの?キリカさん」

 「――なんでもない」


 少し考えてみたが、自分の過去を改めて振り返った事が無い。

そもそもの話ではあるが、自分の事を誰かに説明した事なんて一度も無い。

それに私は、『私』という固体の説明が出来るとは思わないのである。


 「前に何をしていたか。それは知りたい事なの?」

 「友達の事を知りたいと思うのは普通だよ。何が好きなの?とか、普段は何をしてるの?とか」

 「そう。……なら、少し待って」

 「……話したくない事なら、無理しなくて良いよ?」

 「多分、大丈夫。私は、偽物だから……」


 そう言って標的である彼女と別れ、浴室でシャワーを浴びた瞬間だった。

私の意識は途絶えて、目の前の景色との接点を絶たれて真っ暗になるのだった――。


 

 ――わたしは、わたし。そして、彼女もわたし。

何を言っているのかと思われるかもしれないが、これが事実なのだから仕方無い。

説明を求められても、わたしはわたしの存在を説明する事は難しくない。

難しくは無いのだけれど、わたし自身を差し置いてわたしを説明するのはお門違いだろう。


 「……キリカ・レイフォード。それが、あなたの名前」

 「そう。わたしはキリカ・レイフォード。そう名乗った方が、マリアが苦労しないと思うわ」

 「…………」

 「どうしたの?そんなに警戒しなくても、わたしはマリアに危害は加えないわよ」

 「警戒をするな、という方が無理だと思います。そもそも、あなたは何者なのですか?」

 「『貴女は何者なのですか?』ね。他人行儀で悲しいわ。わたしはマリアの事を他人と思っていないのに、何て悲しい現実なのかしら。ふふふ」


 わたしが笑みを浮かべると、何故か彼女はこちらを睨んで見ている。

警戒しているのか、それともわたしを敵だと認識しているのかは分からない。

だけどこの場所に居るだけあって、警戒心が強くて用心深いと褒める所だ。


 「敵と認識するという事は、マリアはわたしの存在を現実に受け止めたという事になる。その時点でマリア……わたしはマリアを攻略したと言っても良いのが現状よ」

 「どういう意味ですか、それは」

 「単純な話よ。わたしという存在は、本来は存在しないの。でもマリアはその存在と話し、警戒し、様子を伺っている。それは『キリカ・レイフォード』というブランドを認識した事になる。わたしが記憶に留まる事が出来て、その存在を現実世界に溶け込ませる一歩となるのよ。まぁ言っても分からないかもしれないけれど、あえて言わせて頂こうかしらね」

 

 わたしは立ち上がって彼女に近付き、頭の上に手を乗せて呟くように言うのだった――。


 「……ありがとう。ふふふ」

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