『キリカ・レイフォード』
「――ここに来る前は、何をしていたの?」
そんな事を問い掛けられた瞬間だった。
霧華の内側で、彼女ではない誰かが笑みを浮かべた気がした。
その笑みが浮かんだ途端、霧華の中で何かが切り替わる。
「……キリカさん?」
「…………」
俯いた霧華を心配し、美久は顔を覗き込ませる。
酷く動揺していて、霧華は目を泳がせている様子だ。
美久はこれ以上は心配し、その日は遊園地を後にしたのであった。
「あ、お帰りなさいませ、お姉さま!……??お姉さま?」
「…………」
自分の部屋へと向かう霧華は、マリアの声すら届かない様子だった。
そんな彼女はゆっくりと歩いて、浴室へと向かってシャワーを浴びる。
薄暗い部屋の中から、首を傾げて様子を見るマリアは思考を動かした。
「まさか、柊美久がお姉さまに何か?だとすれば、やはり即刻消さないといけない」
『…………ふふふ』
「お姉さま?」
小さく笑っているような声が、微かに浴室から聞こえてくる。
シャワーの音と同じくらいで、掻き消されそうになっているが聞き取れる。
そんな声で笑みを浮かべている霧華は、自分の映る鏡を見て笑っていた。
「……ふふふ、霧華、大丈夫よ?私があなたの気持ちを楽にしてあげる。不安、心配、憂い、危惧を含むもの全て……私が消してあげる。全部全部全部全部全部……あなたの為に消してあげる♪」
「…………」
浴室の扉に映るシルエットを眺め、マリアは身を隠して口を塞いだ。
見た事の無い彼女の様子を見た瞬間、見てはいけないものを見てしまった気分だった。
マリアはそのまま自室に戻って行って、塞いでいた口から手を離して呟くのである。
「あれは……いったい……お姉さまの身に、何が?」
「さぁ……何があったと思う?」
「――っ!?」
マリアが呟いた瞬間、彼女の声が耳元で囁かれる。
音も無く、部屋の扉も閉めていたはずだとマリアは思った。
だがしかし、今の彼女には関係無いのだ。意味の無い行動でしかない。
「ど、どうして?ドアは閉めたはずなのに」
「鍵まで閉めないと意味無いよぉ~、マリア?まぁ鍵を閉めた所で、私には効果は無いけどね」
「……っ……あ、あなたは誰なのですか?」
「あれ?霧華はお姉さまって呼んでくれてるのに、私の事はそう呼んでくれないの?」
マリアは近寄る霧華に対し、怯えた様子で身を引いている。
そんな様子を見た霧華は、口角を上げながら同じ目線になるように四つん這いになった。
そして目を細めて、顔を近付ける彼女はマリアの耳元で呟いたのだった。
「……っ」
「じゃあ今日は自己紹介だけ。私はキリカ・レイフォード、宜しくね?マリア」
「その名前は、お姉さまの偽名で……ほむっ!?」
顔を見合わせてマリアが指摘した瞬間、キリカと名乗った霧華は唇を重ねた。
やがて離れた彼女はニヤリと笑みを浮かべ、マリアの頬に手を添えるのだった――。




