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【完結】奴隷少女は、笑わない  作者: 三城谷
第三章【籠の中の小さな鳥は】
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『穢れた人形と無垢な少女』

 私は人形の中でも、薄汚れた泥人形と同種だ。

それは今も昔も変わらないはず……はずなのだが、何故だ。

何故、彼女は私の手をそうやって引っ張るのだろうか。

分からない。分からないまま、私は彼女の手を握ってしまった。


 「キリカさんっ、次はあれに行きましょ!」

 「ジェットコースター……?」

 「さぁ、行きましょ!!」

 「……あ」


 また手を引かれ、次から次へと場所が変わっていく。

向かう先々の景色は、一つ一つ違う物が見えてきている。

私が今居るこの場所は、キラキラと輝いているようにも見える。


 「……ん?キリカ、さん?」

 「………………」

 「どうして、泣いているんですか?」

 「え?……」


 本当だ。私の目元から、温かいものが頬を伝っている。

ポタポタと手の平に落ちるそれは、私は一度だけ流した事がある。

その瞬間の感情が、どうして今更……出てきたのだろうか。

私には、泣く資格なんて無いのに――。


 「さっきはその、ごめんなさい」

 「ううん。どうしてか分からないけど、泣き止んでくれたから良かった!もうすぐ閉園だから、最後にあれに乗ろう?」

 「あれは……?」

 「観覧車っ。私、好きなんだ♪」

 「そう。じゃあ、行く」

 「……っ、うんっ!」


 自分でも珍しかったと思う。

自分から彼女に手を差し出して、その手を握ってもらおうとした。

そんな行動自体が、私自身を苦しめる事を知らずに……。


 『まもなく、閉園時間となります。この度は、お越し頂き、誠に有り難う御座います』

 「あ、一周しか出来ないかもね。残念」

 「随分と、ゆっくりな乗り物なのね」

 「うん。だけど、私は好き。辛い時とか嬉しい時とか、色んな事があって落ち着きたい時、私は良くここに来るんだ」

 「…………今日はどんな時?」

 「嬉しい時!だって、キリカさんと友達になれたんだもん!こんなに嬉しい事は、お祝いしなきゃって思うもん!」


 彼女は心の底から嬉しそうにして、ぱあっと明るい笑顔を浮かべる。

その笑顔はとても眩しくて、私には到底辿り着けない場所とも感じた。

いや、辿り着けないではない。辿り着く事は、許されないが正しいだろう。

彼女と違って私は……私のこの手は、汚れていて、穢れているのだから。


 「――どうしたの?まだ、どこか悪い?」

 「……ううん、大丈夫」

 「そっか。あ、ねぇねぇ、一つだけ聞きたいんだけど、良いかな?」

 「何?」


 彼女が聞く事は、どうせ大した事では無いだろう。

そんな事を思いつつ、私は彼女の顔を見据えた。

華奢な身体で、運動が苦手そうな、明るい少女。

あの学園の白い制服が、彼女の容姿に若干の華やかさを漂わせている。

そんな彼女の瞳に映る私は、物を語らぬ人形にしか見えなかった。


 「えっとねー、キリカさんは……」

 「……」


 口を開き始めた彼女。

そんな彼女が発した言葉に対して、私は苦悩する事になったのだった――。


 「ここに来る前は、何をしていたの?」

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