『穢れた人形と無垢な少女』
私は人形の中でも、薄汚れた泥人形と同種だ。
それは今も昔も変わらないはず……はずなのだが、何故だ。
何故、彼女は私の手をそうやって引っ張るのだろうか。
分からない。分からないまま、私は彼女の手を握ってしまった。
「キリカさんっ、次はあれに行きましょ!」
「ジェットコースター……?」
「さぁ、行きましょ!!」
「……あ」
また手を引かれ、次から次へと場所が変わっていく。
向かう先々の景色は、一つ一つ違う物が見えてきている。
私が今居るこの場所は、キラキラと輝いているようにも見える。
「……ん?キリカ、さん?」
「………………」
「どうして、泣いているんですか?」
「え?……」
本当だ。私の目元から、温かいものが頬を伝っている。
ポタポタと手の平に落ちるそれは、私は一度だけ流した事がある。
その瞬間の感情が、どうして今更……出てきたのだろうか。
私には、泣く資格なんて無いのに――。
「さっきはその、ごめんなさい」
「ううん。どうしてか分からないけど、泣き止んでくれたから良かった!もうすぐ閉園だから、最後にあれに乗ろう?」
「あれは……?」
「観覧車っ。私、好きなんだ♪」
「そう。じゃあ、行く」
「……っ、うんっ!」
自分でも珍しかったと思う。
自分から彼女に手を差し出して、その手を握ってもらおうとした。
そんな行動自体が、私自身を苦しめる事を知らずに……。
『まもなく、閉園時間となります。この度は、お越し頂き、誠に有り難う御座います』
「あ、一周しか出来ないかもね。残念」
「随分と、ゆっくりな乗り物なのね」
「うん。だけど、私は好き。辛い時とか嬉しい時とか、色んな事があって落ち着きたい時、私は良くここに来るんだ」
「…………今日はどんな時?」
「嬉しい時!だって、キリカさんと友達になれたんだもん!こんなに嬉しい事は、お祝いしなきゃって思うもん!」
彼女は心の底から嬉しそうにして、ぱあっと明るい笑顔を浮かべる。
その笑顔はとても眩しくて、私には到底辿り着けない場所とも感じた。
いや、辿り着けないではない。辿り着く事は、許されないが正しいだろう。
彼女と違って私は……私のこの手は、汚れていて、穢れているのだから。
「――どうしたの?まだ、どこか悪い?」
「……ううん、大丈夫」
「そっか。あ、ねぇねぇ、一つだけ聞きたいんだけど、良いかな?」
「何?」
彼女が聞く事は、どうせ大した事では無いだろう。
そんな事を思いつつ、私は彼女の顔を見据えた。
華奢な身体で、運動が苦手そうな、明るい少女。
あの学園の白い制服が、彼女の容姿に若干の華やかさを漂わせている。
そんな彼女の瞳に映る私は、物を語らぬ人形にしか見えなかった。
「えっとねー、キリカさんは……」
「……」
口を開き始めた彼女。
そんな彼女が発した言葉に対して、私は苦悩する事になったのだった――。
「ここに来る前は、何をしていたの?」




