『不機嫌メイド』
休み時間。噴水の見える広場で昼食を取る霧華。
その容姿は幼くても、凛としたその仕草は注目を浴びていた。
紅茶を飲んでいる様子も、目を細めている様子も絵になっているのだった。
「……注目の的ですね、お姉さま」
「注目される理由無いのにね」
「そんな事ありませんよ、お姉さま。お姉さまは、注目されて当然ですから」
隣で紅茶を飲みながら、マリアはそんな事を言った。
霧華は目を細めながら、彼女の容姿を上から下まで視線を流す。
メイド服に身を包んでいる彼女の方こそ、注目を浴びているのでは無いか。
そんな事を思う霧華なのであった。
「お姉さま、本日の放課後は如何しますか?」
「今日は予定があるから、マリアは先に帰ってて」
「へ?」
「確か、この前の子に誘われてた気がするから」
「……あ~、へぇ~、な、なるほど……」
「ん、どうしたの?」
「い、いえ、別に?なんでもありませんよぉ~?」
両手を振りながら、何かを誤魔化すようにマリアはそう言った。
首を傾げる霧華は紅茶を飲むが、身体を背けた彼女は思想を繰り広げる。
「……っ(た、確か、柊美久と言ったかな。お姉さまと放課後デートなんて、万死に値します!)」
「???」
メラメラと燃えているマリアを、霧華は困惑するように眺めていた。
そんな中で、霧華と約束を交わした柊美久は笑みを浮かべていたのであった――。
夜。それは月光が夜道を照らす頃。
そんな誰も居ない時間の中で、彼女は一人でビルの屋上へと来ていた。
連絡手段である携帯を耳に当てると、ブツっと電波が繋がる音が聞こえてくる。
『あら、マリア……定時連絡かしら?』
「はい、ジェシカ様。今、お時間宜しいでしょうか?」
『ええ。今はちょうど時間が空いた所ですわ。それで?私の霧華の様子はどうかしら?』
ビルの屋上から、ある部屋の住人を見ながら目を細めた。
『……どうしたのかしら?偉く、そうね……不機嫌、と言った所かしら?』
「っ……わ、分かるのですか?」
『同じ性別ですから。それで?何か気に食わない事が遭ったのかしら?』
「はい。霧華様が、本日……標的である柊美久と接触したのですが、何も報告をして下さらないのです。それに帰宅してから、霧華様の様子がおかしいのです。あの女が、何かを吹き込んだ可能性があります」
『……なるほど』
「はい。早急に排除する事を提案致します。許可を」
『駄目よ。こちらの準備が整ってないわ?もう少し待って頂ける?』
「はい。分かりました…………ちっ」
プツンと耳元で音が鳴った瞬間、不機嫌そうに舌打ちをした。
視界に入る彼女の事を観察しながら、マリアは一言だけ呟くのだった――。
「……泥棒猫っ」




