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【完結】奴隷少女は、笑わない  作者: 三城谷
第一章【全ては自分の為にした事だ】
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『少女は、偽装する』

 白皇(はくおう)学園というのは、些か出過ぎた名前だと思う。

別に他意はないのだけど、それでもこの学園に皇というのは相応しくないと思う。

そう、思ってしまうのだ。ここはあまりにも……。


 「霧華さん、行きましょう?」

 「はい。次は体育でしたね、すぐに準備致しますわ」


 ――ここはあまりにも、平和過ぎる。


 「この学園って、いつ頃からあるのですか?」

 「そうですね……歴史のある学園だとは聞いていますが、私もまだ一年ですから詳しくないのです。お力になれなくて、申し訳ありません」

 

 彼女は正直者という性格なのだろう。そして表情豊かだ。

自分に無い物を、全て持っているのが少し――いや、少し何だろうか。

ちょっとモヤモヤするこの気持ちは、何だろうか?


 「…………」

 「シルヴィアさんは、授業に参加はしないのですか?」


 体育館の端で、体育座りをしている彼女。

その彼女が何故参加しないのかが気になり、気づけば声を掛けていた。

何をしているのだろうか、私は。何がしたいのか、よく分からない。

 

 「あぁ霧華さん……いえ、少々諸事情がありまして、体育の授業のみを欠席にさせていただいてるのです」

 「諸事情?ふーん……」


 どういう理由かは知らないし、興味もない。

だけど何故なのだろう。いつも笑顔な彼女が、ここまで沈んでいると余計に気になる。

この無性に腹が立ち、ぎこちない空気は何というか――落ち着かない。


 「ではシルヴィアさん、私とお話をしてくれませんか?」

 「え?」


 私はそう聞くと、戸惑ったように目をぱちくりさせている。


 「どうしたのですか?私とお話は、嫌でしたでしょうか?」

 「あ、いえ、とても光栄(こうえい)なのですが――何故、私とお話を?」


 そんなの、私が聞きたいぐらいだ。

でも落ち着かないのだ。それならばこの感情を払拭(ふっしょく)する。

その為ならこれが最善だという判断。ただそれだけの事である。


 「私でよければ、話を聞けると思ったからでしょうか。いつも明るい貴女が、そこまで悩むのは相当な事です。だからとは言いませんし、確証もありません。ですが、自分で思い詰めるよりは良いと思います」

 「霧華さん……。ではお話を聞いていただけますか?」

 「ええ、もちろん」


 こうして私は、興味も無かった話を聞く事にした。

体育の授業中という事もあり、他の生徒の邪魔にならないような場所へと移動する事にする。

端のまた端……誰もこれならば近づいては来ないだろう。


 「それで、悩みとは何なのでしょうか?」

 「はい。それは、ですね――」


 彼女はそこで言葉が止まり、しばし考えるように目が泳ぐ。

話していいものか、話さないようにするべきかと悩むように。

読心術(どくしんじゅつ)の心得は私には無いが、それでもそう悩んでいる事ぐらいは分かった。


 「話し辛いなら、無理強いはしないですよ。ただ抱え込む事をオススメしないだけなのですよ?」

 「話し辛いなんて、そんなこと……思ってはいません。私はただ、霧華さんに迷惑を掛けてしまうという事を恐れているのです。変に巻き込みたくは無いのです。決して霧華さんと話すのが嫌では……」

 「そんな必死にならなくて良いですよ。話すまでここに居ますから、自分のペースでどうぞ」


 そう言うと、深呼吸が小さく聞こえて来る。

悩みを話すだけなのに、彼女は何をそこまで思い詰めるのだろうか。

あぁ、でも――先ほど、その理由を言っていた。

『巻き込みたくない』だったか。それは無理な話ではある。

他人が他人を巻き込まない事など、間接的には不可能な行為だという事なのに。


 「私の家は、華道(かどう)の家元なのですよ」

 「華道?あぁ、確か授業でもありましたね。その家元という事は、シルヴィアさんはその跡を継ぐおつもりなのですか?」

 「将来的には継ぎたいとは思っています。近々、その華道の試験があるのですよ。その結果で、どの家が華道の中心になるかという事が決まってしまうのです」


 なるほど。家元同士の派閥(はばつ)争いのようなものだろうか。

どこか華道としての名門として、名を売るかという話の事だろう。

どの国でもあるのだなというのが、率直に感じた感想だが――それが何だろうか?


 「それでシルヴィアさんは、何に悩んでらっしゃるのですか?継ぐ意志があるのなら、やり遂げようと努力しているのでは無いですか?貴女は真面目な方ですから」

 「努力はしているつもりです。ですが……最近、上手く行かないのです」

 「それで自信が無くなってしまったと?そういう事でしょうか?」

 「……はい。恥ずかしながら、そういう事です」


 ――なるほど。

つまり彼女は、その華道の名門を決める試験に受ける圧力。

そのプレッシャーに負けているという事だろう。

そんなに思い詰めるぐらいなら、辞めてしまえば良いのに……。


 「私で良ければ、お手伝い致しましょうか?」

 「霧華さん、華道の心得がお有りなのですか?!」

 「心得という程ではありませんが、第三者の意見を聞いて、客観的な指摘が見つかるかもしれませんよ?という話です。私には、見様見真似(みようみまね)で得た知識にしかありません」

 「それだけでも嬉しいですわ!ぜひ、ご教授していただいても?」

 「ええ、分かりました。では放課後、華道部の部室をお借りしましょう。それとシルヴィアさん?」

 「はい、何でしょうか」

 「この学園の生徒ともあろう者が、身を乗り出して手を握って来る。というのは、淑女としてもいかがなものかと思いますよ」

 「――っ?!」


 私がそう告げた瞬間、自分の手元を見た彼女は真っ赤になった。

慌てて離して、ペコペコと謝罪を繰り返した所で鐘の音が響いてきた。

そのまま私は、彼女と共に教室へ戻るのだった。

だがその道中、私はあの人に言われた言葉を思い出していたのだった。


 机の中に隠したあの一枚の写真の存在。

その写真には、彼女――シルヴィアが写っていたのだった――。



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