『交わされた約束』
「あの子と何を話してたの?」
「何でもありません。ただの世間話です♪」
「そう。あまり標的との接触はしない方が良い。面倒になる」
「分かってます、お姉さま」
鼻歌を混ぜながら、スキップしたり踊ったりしながら歩くマリア。
そんなマリアの様子を見ながら、窓ガラスに映る自分の姿を上から下へと眺める。
少しスカートの端を掴んで、くるりと回転してみる霧華。
「……こんな感じ?」
隣 に居るはずのマリアに問い掛けたが、霧華は首を傾げたまま呟いた。
視界を探ってみたが、マリアの姿は見えずに目を細める。
やがて背後から気配がして、霧華は伸ばされた手を引っ張って隠してたナイフを逆手に構えた。
だがその相手は、焦ったように両手をブンブンと振り回すマリアだった。
「わー、わー!お姉さま、ストップです!」
「あぁ、うん。ごめん……つい」
「もうお姉さまったら、こんな公の場でナイフを抜かないで下さい!もうっ」
頬を膨らませながら、プンスカと怒った足取りで進んで行くマリア。
霧華はその背中を眺めながら、ナイフをスカートの下へと戻して行く。
だが霧華はまた目を細めて、その小さな背中を見つめるのだった。
「……(あの気配、本物の殺気だった)」
そう。霧華の背中に近付いた気配は、紛れも無い殺気だった。
それを放っていたのはマリアであり、先に歩くマリアは笑みを浮かべていた。
密かに持ち歩いているそれを袖に隠しながら、少女は無邪気にまた笑うのだった。
「ではお姉さま?そろそろ帰りましょうか♪」
「……うん」
手を繋ぐように促すマリアの手。
それを目を細めながら、霧華は躊躇いもせずに握った。
そしてマリアは嬉しそうに笑みを浮かべ、霧華の腕に抱き着くのだった――。
――翌日。
マリアは用事があると言って、一人で廊下を歩く霧華。
そんな霧華を狙っていたかのように、再び彼女が目の前に現れた。
「お、おはようございます!レイフォードさん!」
「…………ん」
微かに返事してから、彼女の横を通り過ぎる。
だが彼女は霧華の手を掴んで、まるで追い討ちを仕掛けるように言った。
「あ、あのっ……今日の放課後、遊びに行きませんか?」
「???」
霧華は手を掴まれたまま、首を傾げて問い掛ける。
「どうして、私?クラスメイトなら、他にも居るでしょ」
「わ、私はレイフォードさんが良いの!そういう理由じゃ、駄目……ですか?」
「……はぁ……分かった。じゃあ放課後に」
「本当に!やったっ!それじゃレイフォードさん、放課後に。絶対ですからね!」
彼女はそう言って教室に入ると、上機嫌に自分の席へと座りに行った。
霧華も自分の席へ座ると、いつも通りに外を眺めて頬杖をする。
そんな風に外を眺める霧華の事を観察し、望遠鏡と携帯を持つ人影があったのだった――。




