『出来ない表情』
「キリカ・レイフォードさん、私とお友達になってください」
握られた手を眺めながら、霧華は首を傾げる。
少女の名前は「柊美久」といい、現在、霧華とマリアの標的でもある人間だ。
だが霧華の事情を知らない美久は、両手で霧華の手を包んで詰め寄る。
「どうして?私なの?」
「友達になるのに、理由なんて必要じゃありません!問題は誰とそうなりたいかです!」
「熱弁してる所悪いけど、私には興味ないかな」
霧華は手を振り払って、足早にその場を去ろうとした。
だが美久はその手を再び掴み、霧華の動きを止めるのだった。
「……しつこい」
「っ!」
霧華は我慢出来ず、腕を掴んだ美久を睨む。
睨まれた彼女は手を離し、霧華はそのまま溜息を吐いてその場から姿を消した。
残された美久は霧華の睨んだ目に怯んで、胸の前で自分の手を強く握る。
それは恐怖だ。得体の知れない何かを感じた美久だったが、深呼吸して足を前に出した。
その様子を見ていた彼女は、その霧華と美久の様子を伺っていた。
「お姉さまに好まれたいのであれば、もう少し非情さを見せなければお姉さまに好まれませんよ?さて、放課後はお姉さまとデートでもしましょうか。ふふふ、楽しんで頂けるかしら?」
メイド服のまま踊り、まるでバレエをしているような優雅な動きで舞う。
彼女の事を見る視線やひそひそと話す声が聞こえるが、彼女は気にする素振りはない。
それどころか、好きなように踊り続けていた。笑みを浮かべながら、鐘が鳴るその時まで。
「……という事で、放課後ですよ!お姉さま♪」
「何がという事なの?」
「細かい事は気にしないで下さい。やっと邪魔な者が居ないんですから、遊びに行きましょう?」
「でも任務があるし……」
腕を引っ張られながら、霧華は校舎の外へと出て行く。
この学園は校舎を出るには、外出許可証が必要なのだがマリアは既に持っていた。
放課後になる前に、自分で霧華の分も書いていたらしい。
「それで、どこへ行くの?門限を越えると面倒よ」
「大丈夫です。これもお仕事ですから!――さぁ、行きましょう?お姉さま」
ぱぁっと輝く明るい笑顔を浮かべながら、マリアは霧華に手を差し伸べる。
夕暮れに混ざった彼女も輝いていて、霧華には神々しく見えてしまった。
そして思ったのである。
「…………」
「お姉さま?」
自分にはそういう顔は出来ないと――。
そんな笑顔を作る事が出来ないと、心の中で小さく思うのだった――。




