『差し出された手』
『――わ、私と友達になりませんか?』
廊下でそう声を掛けられた霧華は、首を傾げてその手を握る少女を見た。
ショートヘアの茶髪で、霧華と身長はそう変わらない少女。
調理実習中には、自分と同じグループに居た事を霧華は思い出した。
「……どうして?」
友人という言葉を聞いた時、まず霧華の頭上には?マークが浮かんだようだ。
どうして自分なのかという疑問が先に浮かび、それを解明しようと思ったからである。
だがしかし、少女は霧華の事を全く知らない。いや、正確には詳しく知らない。
「えっと、柊美久だったっけ?どうして私なの?」
「……友達になるのに、理由っているかな?」
「疑問を疑問で返すのは気に入らない。今は私があなたに聞いてる」
「あ、ごめんなさい。えっと、じゃあ……」
彼女は霧華の事を伺いながら、言葉を必死に選んでいる。
そんなオドオドしている様子を見兼ねた霧華は、溜息を吐きながら廊下を進み出した。
「あ、ちょっと待って……!」
慌てた様子で霧華の手を握ったが、霧華は冷めた目で彼女を見た。
そしてまた溜息を吐いて言ったのだった。
「廊下を塞ぐのは迷惑行為。話があるなら、場所を移動するよ」
「あ、うん」
「じゃあお姉さまの邪魔にならないように、私は教室でお待ちしてますね?」
「ん?マリアも来るんだけど?」
「はい?それはこの方に失礼だと思ったのですが……」
マリアの言葉を聞いた霧華は、少し考える素振りをしながら彼女を眺める。
見た目は至って普通なのだが、どこかパッとしない地味な女子生徒。
だがしかし、日本に霧華が居る理由である以上……無碍には出来ないのだろう。
「分かった。じゃあマリア、また放課後で」
「はい。仲良く出来ると良いですね!」
「……?」
霧華は首を傾げて廊下を進みだした。
その後ろを着いて行く彼女の様子は、どこか小動物のようだった。
それを思いながら、マリアはメイド服のスカート翻して教室へ向かう。
「お姉さまはさて、殲滅か撃退か……どちらを選ぶのでしょうか?くふふ♪」
マリアは笑みを浮かべながら、自分の教室へ向かっていく。
スカートを摘みながら踊る彼女は、ある意味で注目を集めていた。
そんな中で、霧華は人の少ない場所へと移動を完了していたのだった。
「それで、友達になるっていうのは……どういう事?」
「どういう事って、友達は友達だと思うけど……」
「その友達ってのが、良く分からない。友達って具体的に何すればいいの?」
「えっと、困った時に助け合ったり、分からない事は教えあったり、一緒に帰ったり、遊びに行ったり……色々と出来る仲間、みたいな感じかな」
「……ふーん」
霧華はそれを聞いたが、ピンとは来ていなかった。
それどころか、目の前の彼女の事を観察していた。
何故なら標的だから、それしか当てはまる理由はないのだった。
「じゃあ私が困ってたら、あなたは助けてくれるの?」
悪戯心が浮かび、思ってもいない事を彼女に尋ねる。
答えられないだろうと思っていた霧華だったが、彼女は迷う事無く答えを言ったのだった。
「助けるよ?だってそれが友達だもん」
「…………そう」
霧華は目を見開いて、彼女の事を見据えた。
彼女は何食わぬ顔をしたまま、霧華に再び手を差し出したのだった。
「キリカ・レイフォードさん、私と友達になってください」




