『初めての友人』
私が彼女と出遭ったのは、調理の授業が行われている時だった。
短い自己紹介をした後、無表情な彼女は淡々と野菜を切っていく。
教科書を見ながら切っていくその仕草は、とても落ち着いている様子だった。
「レ、レイフォードさん、上手だね」
「なにが?」
「何って料理、料理作るの好きなの?」
「……どちらでもない」
彼女はそう言って、教科書通りの調理方法で進めていく。
一つも間違わない手順と手際を見ていると、本当にどちらでもないのか疑ってしまう。
だけど彼女は、早々に作り終わると一言だけ言って教室を出てしまった。
「……私の役割分は終わったから、後は適当によろしくね。それじゃ」
『あ、ちょっと……レイフォードさん!?』
呼び止めようとする教師の声を無視して、彼女は出たすぐ近くで本を読んでいた。
調理が終わって食事をしようという時だが、彼女が参加する事は無かった。
ただ一人で本を読んで、廊下の奥へとゆっくり消えてしまったのである。
『なぁにあれ、何様なの?』
『少し頭が良いからって、調子に乗ってるんじゃない』
「…………」
クラスメイトの中から、そんな事を呟く声が聞こえてくる。
雰囲気が悪くなるのを感じて、私は一人でに彼女の様子を伺いに校内を探した。
何処に居るのか不明な為、闇雲に探しながら校内を歩いていく。
「お姉さまっ!休み時間にご予定はありますか?」
「別に無い」
ふと聞こえてきた声に反応し、何故か隠れながらそれを観察する。
メイド服みたいに改造した制服を着用している少女が、彼女の腕に笑顔で抱き着いている。
そしてその彼女は、何食わぬ顔でその少女の頭を撫でている。振り解く素振りもない。
「……お姉さま、何かお飲みになりますか?」
「必要ないわ。早く帰りたいわね。ここはつまらない」
「…………」
私はその言葉を聞いた瞬間、気が付いたら体が動いていた。
何も考えていなかったはずなのに、その顔を見た瞬間に動いてしまった。
私は咄嗟に彼女の手を握り、振り絞ったような声で一言だけ言うのだった。
「わ、私と友達になりませんか?」
「…………なに?」
手を握られた彼女は、目をぱちくりしながらこちらを見ていた。
廊下の中で目立った私は、ただ彼女の目だけを見ていた。
その表情は私が彼女の初めて見る表情でもあった。とても困惑していたのであった。
「……とも、だち?」
これを言っていた時、私は多分……我慢出来なかったのだろう。
つまらないと言っていた彼女は、本当にその言葉通りの表情をしていたのだ。
だから私は動いたのかもしれない。彼女に笑ってみて欲しかったから――。




