『少女、出会う』
「イギリスからやって来ました。キリカ・レイフォードといいます。宜しくお願い致します」
「同じくイギリスから参りました。マリア・スカーレットです。お嬢様共々、仲良くして頂けると嬉しいです。私は授業には参加しませんが、何か出来る事がありましたらお申し付け下さい。宜しくお願いします」
「…………」
長い挨拶だと思いながら、霧華は隣でニコニコとしている彼女を見る。
着いて来るとは聞いていたが、まさか仕事先にまで着いて来るとは思っていなかったのだ。
それもそのはず。彼女が仕事の内容を聞いたのは、日本へ到着した直後だったのである。
「……どうして言わなかったの?」
「聞かれなかったので。それにお姉さまがちゃんと出来るよう、ジェシカ様からも言われてるのですよ。雇い主の申し出にはきちんと応えないと、仕事としてやっていけませんから。という事でお姉さま、覚悟して下さいね?ふふふ」
そう言って、彼女はその主人を放って置いて廊下を早々に歩く。
周囲の視察は暗殺業の基本と教えたけれど、別に彼女がやる必要は無いと思う。
そう思いながら、溜息と共に廊下を歩く霧華。
そんな霧華は考えてもいなかっただろう。彼女自身が、その学園では非常に目立つ事を。
◆
廊下を歩いていた私。その私の視線を奥で、キョロキョロとしながら歩く一人の女の子。
制服を着ていても、この学園の者ではない雰囲気を纏っている事が理解出来た。
見た事のない顔立ちや空気。それらは転校生という存在を大きく際立たせる。
まるで太陽の光のように眩しく、自分が影であるかのように……。
「綺麗な子。でも何処か、寂しそうな子……何だろう?あの子は」
『何をボーっとしてるのさ。ほら、次の教室に行こうよ』
「あ、うん」
友人に呼ばれ視線を外して、もう一度視線を彼女に戻した瞬間だ。
女子というのは時に、人一倍に視線を判別する事が出来る事があると聞く。
恐らく彼女は多分、それが人よりも数倍高いのだろうと思う。
目が合ったのだ。廊下に居る人で視界が邪魔されるのに、目が合ったのである。
そして名の知らない彼女は何も言わず、後ろに居る誰かに呼ばれて廊下の奥へと消えた。
「…………」
『どうしたの?美久?』
「ん?ううん、なんでもない。行こっか!」
ほんの数秒間の事でも理解出来た。
それが彼女との出会いだったが、私は今でも鮮明に覚えている。
これが私の始まりであり、終わりでもあるという事。
今この瞬間、走っていたレールの分岐点が切り替わる音が響く。
大きく、そして……その道が不安定な事も、何もかも私は覚えているのだった――。




