『小さき少女は、主人を慕う』
朝起きた瞬間、彼女の姿はそこにあった。
私の見間違えでもなければ、この世界も夢ではなく現実世界だ。
どうして彼女が、マリが私の部屋にメイド姿で居るのだろうか。
「おはようございます!お姉さま♪」
「???――えっと、何してるの?」
「何って、お姉さまが起きるのを待ってました。何か不快でしたか!?」
敬語を話すマリは、以前よりも明るく振舞っているようにも見える。
そこに迷いや悩みなどの面影はなく、私がした事のない笑顔で私に着いて来る。
「お姉さま、朝食の用意が出来ていますよ。あの名前は聞いていませんけど、あの男の人も既にお待ちですよ。それとお姉さまのマスター様も」
「…………すぐ行く」
私は起き上がったばかりの身体を翻して、食堂へと向かった。
本当は夢を覚まさせる為に、洗面所に行きたかったけど……そんな事では仕方無い。
私にとって、自分の事よりもマスターの方が最優先事項であるのだから。
「おはようございます、マスター」
「ええ、おはよう。霧華。マリアもご苦労様、霧華はすぐ起きれたかしら?」
「はい!寝坊すると聞いてましたが、時間通りに起きられましたよ?私の出番がありませんでした」
そんな会話をしている最中、私も用意された席へと座る。
すると隣から声を掛けられて、その声と相変わらずの話し方で誰だか分かった。
「やぁ霧華、今日はいつもより賑やかな朝だと思わないかい?」
「どうしてマリがここに残ってるの?それにあの呼び方は何?」
「挨拶をしないで質問攻めかい?人の話を聞かないねぇ君は。まぁ説明するには簡単な内容さ。今日から君のメイドとして、この家の厄介になるそうだよ」
「そんな話、聞いてない」
「そりゃそうだ。今初めて話したもんさ。それで他に聞きたい事は?」
「もう一つ聞かせて……」
私は彼から話を聞いた。それは昨夜の依頼についての内容である。
話によれば、依頼者であるルクメールが依頼者を名乗って空き巣を繰り返してたらしい。
依頼をする前のスカーレット家との関係は、仕事の同僚だったそうだ。
だが空き巣をする前にルクメールが、ヒューズに毒薬を盛り洗脳をした。
実の娘、マリア・スカーレットがお前を憎んでいるという洗脳だったようだ。
「それでルクメールは?」
「あぁ、報酬はもらってないよ。ただ彼女を騙した報いとして、彼の命という報酬はもらったけどね。マリアを狙ったのは、その洗脳している所を見られたって事で予想はつく。まぁ追った挙句にあんなザマじゃ、滑稽としか思えないけどね」
「そう。それでマリは、何でマスターじゃなくて私のメイドなの?」
「今日は偉く話してくれるじゃないか。そうだね、それは本人に聞くといいよ。――ジェシカ、そろそろ仕事の時間だよ」
彼はマスターにそう声を掛けると、マスターは時計を見て席を立つ。
私が立とうとすると、朝食を食べなさいと制止させられてしまった。
そして食堂から彼らの姿は消え、私とマリの二人だけとなってしまったのであった。
「お姉さま、食べないのですか?」
「どうして……私なの?」
彼女の質問に答えず、私は彼女を見据えて問い掛けた。
すると彼女はメイド服のスカートを摘んで、物語の貴族のような一礼をして言った。
「――お姉さましかいないです。私を助けたのは、お姉さまなのですから」
マリは静かに笑みを浮かべて、私の前に立った。
座っている所為で、彼女との目線が重なる。そして彼女は、私の両頬を抑えて口を近付けた。
「私は一生、お姉さまにこの身を捧げます。例え神様が見捨てようとも、私は貴女に身も心も全て……それが恩義に返せる、私の精一杯ですので」
「……っ」
そう言って、私は動きを封じられた。
その瞬間、唇を重ねられた挙句……口の中で舌を絡められたのだった――。




