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【完結】奴隷少女は、笑わない  作者: 三城谷
第一章【全ては自分の為にした事だ】
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『少女は、安らかに眠る』

 太陽の光が雲の切れ間から差し込み、霧華の寝転がる場所へと当たる。

寝ている顔に照らされているが、微動(びどう)だにせず寝ている。


 「すー……すー……」


 木陰で寝ている霧華の横に、猫がわらわらと寄ってきている。

みゃーみゃーと鳴いていても、その霧華は気づく事はない。

そこに近づくもう一人の少女。彼女はしゃがんで霧華を揺らす。


 「……霧華さん?起きて下さい」

 「んんっ……」


 霧華は寝返りをしながら唸っている。

そのまま起き上がるが、目を擦ってボーっとしている。


 「うぅ……眠い……何してるのですか……」

 「お時間ですよ?そのままですと、授業に遅刻してしまいますわ?」


 眠いという事を我慢しながら、霧華は少女に引っ張られて歩く。

引っ張られるがままに進み、校舎の中へと入っていく。

そこは、名高い生徒しか通わない学園。

華やかな庭園があり、通う生徒には気品がある空間である。


 「そんなに引っ張らなくても歩ける」

 「駄目ですわ。霧華さんは、隙あらば眠るようなお方ですもの」


 この学園の名は『白皇学園』といって、一般の生徒が通う事は無い。

家柄に沿った者や何かの事情で、この学園に通っている生徒も多い。

ただ共通点があるとすれば、この学園の生徒はみんな――箱入り娘に近いようだ。


 「はい、着きましたわ。先生、霧華さんを見つけて来ましたわ」

 「有難う御座います。シルヴィアさん。では皆さん――全員揃った所で、授業を始めましょう」


 その合図で、教室の空気は一変する。

霧華が着いた時にざわついていた空間は、逆転したかのように静寂に包まれる。

英才教育を施す厳しさもあり、生徒全員がそれに誇りを持っている様子だ。

この学園から卒業した生徒の中で、政治家などになろうとする者も現れるだろう。


 ♪キンコーンカーンコーン……。

鐘が鳴り響き、午後の授業が終わりを迎える。教室内は窮屈で、肩が凝ってしまう。

それほどの退屈さといえる。ただ……放課後になれば別である。


 「ただいま帰りました、マスター」

 「おかえりなさい、霧華。潜入は上手く出来ているかしら?」

 「霧華が怪しまれていないので、上手く出来ているかもしれません。けどマスター、霧華は退屈です」

 「あらあら。もう少し待っていてちょうだい?あと少しで特定出来ますから」

 「はい。マスター」


 霧華は赤いドレスの彼女に抱き着きながら肯定した。

彼女は霧華の頭を撫でながら、もう一度同じ言葉を繰り返す。

 

 「ふふふ……もう少し、もう少しですよ。貴女が動くのは……ふふふ」


 その笑みは暗がりに消え、霧華は一人で暖炉の点いた部屋で眠るのだった。



  

 ◇◇◇

  


 少女は安らかに眠る。それはまるで赤子のように。

でもその容姿はあまりにも幼い代わりに、その少女は何も知らない。

何も知らないという事は、何も知る事は出来ていないという事だ。


 「ジェシカ様、先程お電話が……」


 黒いスーツの男が、扉越しにそう伝える。

彼女は少女を起こさぬようにベッドへ寝かせ、その部屋を音も立てずに出て行った。


 「――そう、私たちに付き纏う虫の居所を掴んだのね?」

 「はい。ですが少々厄介な場所にいまして、潜入するにはあまりにも」

 「では何か手段を持ち込んだのではなくて?何も手段を選ばないのが、我々のやり方のはずよ?」


 男は一枚の写真差し出し、口を開いた。

ジェシカは嬉しそうに笑みを浮かべ、その写真に写っている者を見た。


 「分かりましたわ。この件は私に任せて頂きますわ。貴方はネズミが逃げないように、監視をお願いね?」

 「畏まりました。ジェシカ様」


 男は暗がりに消え、彼女はニヤニヤしながら部屋の中へと入る。

穏やかな寝息を聞くが、もうその必要は無いと悟った。

彼女は少女の髪を持ち、無理矢理に起こし始めた。


 「……いっ、マスター?!なにを、するのですかっ?」

 「さっさと起きなさい。仕事の時間よ、()()()


 髪を引っ張り、少女は乱暴に扱われる。

先程の優しさなど面影もなく、彼女は笑みを浮かべて少女を床に叩きつける。


 「……マ、マスター、いったい何を」

 「大人しくしていなさい?()()()()()()()()に目を醒ましてもらうわ」

 

 彼女が持つのは注射器だ。その中には、何かの薬品が注入されている。

少女はその針を見た瞬間、瞳の中にある光が徐々に消えて行った。

そして、まるで人形のような言葉を並べるのだった。


 「……仕事でしょうか。マスター」

 「いい子ね、キリカ。ええ、そうよ。――貴女にはやるべき事があるの。この子、知っているかしら?」


 彼女は先程もらった写真を見せ、そんな事を聞いた。

虚ろな瞳をしている少女は、ただ静かに頷いてそれを肯定した。

その反応を見て、彼女はまた小さく笑う。


 「ではキリカ?その子を三日以内にこの世から消しなさい。これは私たちの為、そして貴女の為でもあるのよ」

 「……きりか、のため?……分かりました。この者の消し方は、何でも宜しいのですか?」


 一枚の写真を受け取り、少女は問いかける。

彼女は少女を抱き締めて、頭を撫でながら耳元で囁く。


 「そうですね。ではこうしましょう。人間が恐怖に震える表情、それを出させて御覧なさい?」

 「はい、マスター」

 「期待していますわよ、キリカ」


 彼女が耳元でそう囁くと、まるで糸が取れた人形のように少女は倒れた。

その少女を再び抱え、彼女はまたベッドへと運んだ。

白いシーツを覆い被せ、何も無かったかのように眠る少女。

彼女は眠る少女の髪を分け、起こさぬように額に口づけをした。


 「おやすみなさい。私の可愛い霧華」


 そう言って、彼女は近くで明かりを灯すロウソクを吹き消したのだった。




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