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【完結】奴隷少女は、笑わない  作者: 三城谷
第二章【可愛らしい獣は、毒の牙を隠す】
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『月夜の下で』

 「……しぶとい、さっさと死んだら?」

 

 私の攻撃を避けるだけなら良いけど、この男の動きには無駄が多い。

なのに仕留め切れない。マスターが見てるのに、どうして!


 『お前じゃダメだよ』

 「――っ!?」

 『私に身を任せてみろ。お前のしたい事を叶えてやる。もっと、もっと深くだ。さぁ、私に委ねろ』


 頭の中で響く声だけじゃない。本当に引き摺り込まれるみたいに視界が悪い。

霧の所為じゃない。これは多分、何か別の……マリが持ってるのは、何?注射器?


 『目を背けるな。お前は私だが、お前では殺しきれない。早く身を委ねるんだ。衝動のままに』

 「……うるさい、さっさと死ねっ」


 振り払うように短剣を振っても、相手に掠りもしない。このままでは飲み込まれる。

いやでも、マスターに拾われたのは私だ。お前じゃない。私が、霧華だ――!


 ◆◆◆


 「……キリカ、殺りなさい」

 「――――」


 聞こえてきたその声は、霧華の身体に見えない糸が張り巡らせられる。

それは呪縛のようなもの。ジェシカ・レーラという彼女が、霧華に生めた幻想である。

自分の身体の自由が失われ、代わりの自分が殻を破る瞬間でもある。 

その幻想は、マリアが作った薬品によって強化されたのである。偶然の産物。


 男は動きの止まった彼女に近づき、落とした短剣を彼女に差し向ける。

その様子を見たマリアは声よりも先に足が動き、ジェシカはそれを見送るように口角を上げた。

彼女ならそうするだろうと、まるで分かっていたように。ジェシカは笑った。


 男。ヒューズ・スカーレットの前には、両手を広げるマリアが立ち塞がる。

退くんだと言っても退かなかったマリアは、半ば無理矢理に突き飛ばされて地面に倒れた。

だが、それを無意識下になっていた霧華は、その一部始終を見逃す事は無かった。のだが……。


 「マリアは良い子だね。うん、実に良い子だと私は思う。けれど甘過ぎる。そう思わないかな?ヒューズ・スカーレットさん――ッ!」


 霧華はそう言って、ヒューズの懐に飛び込んだ。

反撃をしようとしたヒューズだったが、短剣を持った手元を蹴られてしまう。

手元から短剣が離れるのを確認した一瞬、その目線は霧華から外れるのも自然だ。

その行動が、もはや彼の命取りな行動だった。

マリアは一瞬だったが、奇跡的にその動きが全てスローモーションに見えた。

死ぬ寸前に走馬灯が流れるように、視界に居る霧華を見る目には輝きがあったのである。


 「ふんっ!」


 霧華はヒューズの腕を掴み、背負い投げの要領で地面へ叩きつける。

そして短剣を拾い、地面へ叩きつけた彼に突き刺した。刺した短剣を最後に彼女は……。


 「ぐぅ、ああああああ!……あああああああっ!」


 地面にも突き刺そうという勢いで、二度三度と力強く突き刺したのだった。

動かなくなった彼を見る目を細め、頬に跳ねた返り血を舐めて彼女は呟いた。


 「……私はキリカ。マスターの為に命を捧げた、愚かな人形の一人だ」

 

 そして彼女は、電源が切れたようにマリアを見て倒れていくのだった。


 ◆◆◆


 一方その頃、同時刻の街中。

そこはかつて警察や街の人々で、注目を浴びていた場所。

マリア・スカーレットが暮らしていた家でもあり、今朝にあった事件の被害者宅である。


 その建物の中で、手袋を身に着けた人影があった。


 「……やぁ、こんな夜中に泥棒とは仕事熱心だね」

 『…………』

 「でも正直、ボクは情報とかを盗むのは好きだけどさ。人を騙すのは嫌いなんだよね」

 『……どうしたんだい、ボク。勘違いをしているようだけど、ボクはこの場所の取調べを任されていてね?お仕事でここに来ているんだよ。泥棒なんかじゃないんだ』

 「下手な芝居はやめなよ。おじさん。声色を変えたって、他の人は騙せても僕は騙せないよ」


 少年はニヤリと笑みを浮かべて、懐から銃を取り出した。

人影はそれを見据えて、仕事という建前を続けるように動き出した。


 『何を言ってるのかは分からないが、もう夜も遅いんだ。君はそろそろお家に帰りなさい。お巡りさんが――』


 そう言い掛けた瞬間、建物内で乾いた音が鳴り響く。

人影は自分が何をされたか分からないまま、その場に倒れていった。

少年はその倒れた男に近付いて、手元でそれを遊ばせながら呟く。


 「人間誰しもさ、自分の手を汚さずに幸せになろうとする奴も居るよね。あんたみたいなの、僕は結構嫌いなんだよね。ジェシカにはちゃんと、成仏したよって伝えておいてあげるよ。ね、ルクメールさん」


 少年はそう言って、建物の外へと出た。

見上げたそれには大きな月があり、それを見て少年は静かに笑うのだった。


 ――綺麗だなぁ、と。


 ◆◆◆


 「ん、んん……」

 「あ、起きた!おはようございます、霧華お姉さま♪」

 「???」


 翌日。起きた霧華の前で、そんな挨拶をするマリアの姿があったのだった――。

 

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