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【完結】奴隷少女は、笑わない  作者: 三城谷
第二章【可愛らしい獣は、毒の牙を隠す】
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『微笑む彼女は妖艶な』

 「キリカ、あれはどうしようか」

 「私に聞かないでくれるとありがたい。皮膚が腐りかけてるし、目も血走ってる。正気とは思えない」

 「同感だね。ナイフを使う所は人間らしいけど、それ以外は人間さの欠片もないよ」

 『……あぁ。どうしてだ。どうして私を……』


 血走った目は、まるで獣のように赤く夜道で光っている。

ぐったりとうな垂れたその姿勢には、どこからか不気味な空気を纏っているのが分かる。

初めて死体を見た記憶を思い出し、得体の知れない嫌悪感に襲われる。


 「どうしたんだい、キリカ。震えてるかい?もしかして怖い?」

 「……うるさい。あれを殺すのは私。余計な事はしないで」

 「はいはい。仰せのままに、お嬢様」


 スカートの裾に隠した短剣を構え、姿勢を低くしたまま対象へと走る。

首元に狙いを定めて、霧華は思い切り短剣を突き刺そうとする。だが……。


 「避けられた?反射神経が高いのか、単純に反応が早いのか」

 「おやぁ、キリカ。避けられちゃってるじゃないか。どうするんだい?」

 「茶々を入れないで。今、考える」


 短剣を構えたまま、もう一度狙いを定めていく。

頭から首、腕や足の関節へと順に視線を動かしていく。

視線を一つ一つ動かしていく霧華は、ただ一つの場所に狙いを絞った。


 「(どうやら、終わるかな)キリカ、僕は先に依頼主の元へ行くからね」

 「分かった。でもその必要は無いよ。すぐにおわ……?」


 足を前に出した瞬間だった。

視界が左右に揺れて、標的の姿が一瞬霞んでしまう。

片手で顔を覆う霧華は、何で?と思いながら思考を働かせる。


 『あぁ我が娘、マリアはどこへ……。おぉ、マリア、そこに居たんだね。さぁ、こっちへ』

 「……っ!?しまっ。ぐっ!?」


 目が霞んでしまい、スキが出来てしまった霧華。

足元の自由が利かなくなってしまい、いとも容易く男に首を絞められる。


 「やれやれ。キリカ、手助けが必要なら言ってくれないかな?僕はまだ『手を出すな』と言われているからね。勝手な事はしないようにとしているんだけど」

 「……ぐっ、う、るさいっ……」

 「でもそのままじゃ、君――死ぬよ?」

 「(死ぬ……私が?)」


 目を細めた彼の言葉。

それは心臓を貫く刃のように、霧華の内部に突き刺さる。

ドクンドクンと脈を打ち、目の前で首を絞める相手の姿が変化していく。

黒く濃く、禍々しいく闇が蠢いている。それは『死』の恐怖。

かつて味わった事のある過去の出来事が、彼女の深層意識を侵食していく。


 「――私は呪う。世界の狭間へと堕とされた時から」

 『……マリア、私のマリ、ア……』


 シャキン、と響く金属音。ボタッと何かが地面に落ちた音。

それが順に聞こえたのは、彼女のその呟きが聞こえた後の事だった。

地面へと降りる彼女の瞳は、闇の向こう側のように真っ暗な瞳をしていた。


 「私は呟く。この世界を壊す事を夢見て……ふふふ」

 『ぐぅあぁぁぁぁああああっ、私の、腕がぁ』


 落ちた物は、彼の腕。

首を絞めていた片腕が落ち、泣き叫ぶように彼の声が夜道に響く。


 ◆◆◆


 一方その頃、何も無い部屋へ来たマリは彼女に会っていた。

霧華の主人である彼女の主人である、ジェシカ・レーラは目を細めてマリを見つめる。


 「あ、貴方は……?」

 「私はジェシカ。貴方の話は聞いていますよ、マリア・スカーレット」

 「どうして私の名前を」

 「どうして?貴方の話はある者から聞いているのですよ。その者は霧華の身の回りの状況の報告という役割を持っています。その情報は、私に全て報告するようになっています。だから貴方の事も、貴方の家の事も全て知っています」

 「私の……家……。私の家は普通のっ」


 マリが、自分の家を『普通の家』と言おうとした時だった。

口角を上げて、ジェシカは笑みを溢す。


 「それよりも貴方、私の下で働く気は無い?この薬物、良く出来ているわ。うふふ」

 「そ、それはっ!」

 「手癖が悪いのは謝るわ。けれどこれがあれば、恐らくは霧華の力を最大限の引き出せるはずだわ。貴方も見たくは無い?あの無表情でぶっきらぼうな彼女の本当の姿を」

 「あの人の、本当の姿?」

 「うふふ、着いてらっしゃい」


 ジェシカは面白そうな玩具を見つけた子供のように微笑み、外へと出て行った。

マリは外に出る事を躊躇ったが、背後を振り返る彼女に魅せられ足が動く。

これがマリの人生を大きく変えた歯車でもあった。


 「あ、あれは……」

 「見て御覧なさい。あれが本当の霧華よ」

 

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