『灰色の目をした男』
ルクメールという男から、依頼を受け取った霧華。
その依頼を完遂するべく、一旦彼女は準備に取り掛かろうと帰る事にした。
ついでに少女の様子も……。
「ドコ行くのさ?」
「一旦戻る。準備が必要でしょ?」
霧華を呼び止める少年は、少し考えてから彼女の行為を肯定する。
「分かった。なら30分後に広場で落ち合おう」
「貴方だけで先に依頼を終わらせてくれても良いのだけど?」
「ご冗談。僕は多忙でね。それにこの依頼は君と僕とで引き受けた依頼だ。完遂しなければ、あの人に怒られちゃうよ?」
「それは、困る」
霧華は溜息を小さく吐いて、やがて観念したかのような表情を浮かべる。
それを見た彼は、やれやれと呟きながらその場を後にしたのだった――。
◆◆◆
「ん?あれは……?」
ふとした帰り道だった。
警察のパトランプの点滅と一緒に、それを囲むように人集りが出来ている場所を見つけた。
恐らくは、今朝のニュースにあった事件だろう。
私は少し気になり、ちゃんと見える場所まで近寄る事にしたのだが……。
「んんっ……くっ、見えない」
飛び跳ねても、背伸びをしても、周囲に居る大人たちの所為で何も見えない。
やがて諦めて帰ろうとした時、知らない大人に声を掛けられた。
『お嬢ちゃん、あまり見ない方が良いかもよ。子供が見るにはあまりに惨過ぎる』
「…………」
私は改めて現場に近寄ると、その大人は困ったように見える位置を空けた。
人集りの中には子供の姿は無い。それもそうだろう。
誰が好き好んで死体現場なんて見る趣味の子供がいるのだ。そして見せたい親も居ないだろう。
でも私は、私が見たいから見るのだ。
悲惨な現状が広がっていても、それは自己責任という事だ。問題は無いだろう。
「??」
一般人が立ち入らないようにバリケードがあり、その周囲にはブルーシートが敷かれている。
そしてその中には、何かを包んでいるようなブルーシートもあった。
……あれが、死体だろう。そう思った。
だが私の感じた違和感はそこではなく、その警察の行動内容にあった。
野次馬の近くにあった所為なのか、死体を包むブルーシートが破けてしまっているのだ。
私はしゃがんで、それを見つめる。
「…………」
見えているのは腕だけで、他には何も見える事はなかった。
けれどあれは、どう見ても刺殺された後に見えたのだ。ニュースと少し違う。
どうして……?
『――これで私も、死者の仲間入りか。あの子は何処へ?何故私に……』
その場から離れようとした瞬間だった。
うな垂れたように佇み、覇気も無く呟く大人を見つけた。
肌が青白く、具合の悪そうな表情を浮かべている。
まるでこの世界の住人ではないかのように。生者ではないように……。
『あぁ、あの子は一体何処へ?何処へ?何処へ……』
そう呟きながら、私の横を通り過ぎていく。
ユラユラと左右に揺れながら、暗い夜道をゆっくりと進んでいく。
徘徊する死者のような雰囲気だが、その姿を見ている者は誰も居なかった。
そして私は屋敷へ帰り、ボロボロになったぬいぐるみを持った少女に出迎えられた。




