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【完結】奴隷少女は、笑わない  作者: 三城谷
第二章【可愛らしい獣は、毒の牙を隠す】
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『黒服少女は蛇を纏う』

 「相変わらず暗いねー、その服。もう少し良いのは無かったのかい?」

 「選んだのは貴方、私じゃない。遠回しに自虐をするなんて、相変わらず変な人だね。貴方は」


 深夜の中で、霧華と僕は街中を歩く。

紛れ込むように、溶け込むように……。

ただしその為には、僕ら二人のカモフラージュが必要になる。


 「ねぇ、もう少し離れたいんだけど」

 「あー、ダメダメ。君が嫌がって離れたら、カモフラージュにならないじゃないか。そんなのはナンセンスだよ!」

 「ぐっ……いつか殺す」


 物騒な事を隣で言ってくる。

だがしかし、嫌々ながらも僕の腕にぴったりとくっ付いている。

任務だから、という建前を脳内で再生している所だろう。

別に気にする事でも無いのだけれど。


 「それで、今回の標的は?」

 「いや、まだ詳しい説明をしていなかったね。今回は依頼主に会いに行くだけだ」

 「ん?……だったら、この偽装行動はなんなの?」

 「これはこれで必要だよ?何故なら今回の依頼主には、今から来るのは仲の良い兄妹という設定だからね」

 「兄妹で腕を組むとかあるの?」

 「日本にあるライトノベルっていう小説には、そういう作風がある作品は多いらしいからね。別に違和感は無いんじゃないかな?」

 「貴方と私は、そこまで似ている訳じゃ無いと思うのはどうするの?」


 どこまで兄妹という設定が嫌なのか、はたまた僕と一緒というのが嫌なのか。

 いつになく話す霧華に僕は驚く。

改めて思うが、実は彼女はお喋りなんじゃ無いだろうか。

それか不器用という事だろうか。まぁどちらでも良いだろう。

これで、彼女への報告に付け足す事が出来る。

良い話が出来そうだよ、ジェシカ……。


 『これはこれは、可愛らしいお客様が来たこと。さぁ、入って?』

 「「はい」」


 屋敷の前まで来た瞬間、僕と霧華は演技に入る。そして僕らの見た目は子供で、依頼主には伝達役という事になっている。

警戒されたとしても、相手は気を緩ませる作戦にしては十分だ。


 「ルクメールさん、で間違いありませんか?」

 『ああ、私がルクメールだ。君達が彼女の伝達役だというのかね?まだ子供では無いか。私も甘く見られたものだ』

 「甘く見たとかは知りませんが、僕らは別に、遊びでここに来ている訳ではありませんよ。仕事で来ています。それはこの席に座っている貴方も同じ事でしょう?ルクメールさん」


 こういう大人は、自主都合を基盤に動いている。だからこそ、完全なる自己意識を持って行動しなければ相手のペースになってしまうのだ。

それだけは、阻止しなければならない。

阻止しなければ、無理難題を押し付けられる羽目になってしまうからだ。


 「無駄話をする必要はない。貴方が私たち、もしくは私の上に居る人達に依頼するには、それを省く必要がある」


 そう思っているのは霧華も同じのようだ。

彼女にとっては、この時間から早く去りたいというのが優先かもしれないが……。


 『お嬢ちゃん、そんな怖い目をしないでくれないか?私は別に、君達を否定している訳ではないのだが?』

 「私たちを否定するという事は、完全にこの話は無かった事になる。だから無駄話をしに来たというのなら、私たちは依頼を受け取らずにこの場を去るわ」

 『っぐ!?』


 霧華は演技をやめ、いつも通りの無愛想を浮かべて冷たく言った。

立ち上がった所為か、上から見下す形になる。

その瞬間、その場の空気が締め付けられるような圧迫感に襲われる。

見える訳ではないが、恐らくルクメールには視覚化しているだろう。

霧華の素質。それは殺意を混ぜた威圧。

それは表現するなら、蛇に睨まれた蛙のような心境になるという事だ。

ルクメールには多分、身体全体に足から絡み付こうとする蛇が数匹見えているはずだ。

経験談……霧華を怒らせた場合、喉元を噛み付かれる。


 『わ、分かった。き、君達を信用して、私の話をするとしよう。あぁ、するさ。だから待ってくれないか?』


 立ち上がっていた霧華は、溜息を吐いてゆっくり座った。

どうやら話がスムーズになりそうだ。

やはり、彼女を連れて来て正解だったらしい。

正直僕には、彼女のような圧迫感を出す技量も器もない。

僕がするのは、痛みを伴う行動だけだ。

――こうして仕事の内容を聞く事が出来た僕らは、その内容を理解し受け入れる事になった。

だが少し気になったのは、その話をしている最中の霧華の様子。

話を聞いているにしても、何やら別の事を考えている様子だったからだ。


 「君は一体、何を考えているんだい?さっき、何か違う事を思案していただろう?」


 僕はそれが気になって聞いた。

だが霧華は、迷う事なくこう言ったのだった。


 ――貴方には関係ない、と。

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