『さよなら』
『突入、突入ッ!!』
ノイズ混じりの通信機から、そんな声が響き渡る。
だがその声が聞こえた途端、その場所は大きな爆発音に包まれる。
そんな様子を眺める霧華は、崩れて行くこの場所で彼女を抱えて呟く。
「――行こう、マリア」
両手に抱えた彼女の遺体を持ったまま、大衆に紛れて路地へと入って行った。
誰にも気付かれないまま姿を消し、崩れた建物内から見つかったのは二人の遺体のみ。
霧華とマリアという少女の姿は、突入した者たちは目撃する事が出来なかった。
「レイフォードさん、何処に行ったの?」
「諦めなさい。この崩れた物から探すのは危険過ぎるぞ」
「でもお父さん、レイフォードさんは友達なんだよ?助けないと!」
「その為の部隊召集だよ。だけどこれ以上、お前が捜索に加わる必要は無い。大人しく家に帰りなさい」
「そんなっ……――!」
そんな事を言われた美久は、諦められない感情を抑えたままその場から離れた。
その表情には、悔しさと言える物が浮かび上がっているのは父親も理解しているだろう。
これ以上探しても意味の無かった場合、それは彼女の大きな溝になる可能性だってあるのだ。
「……レイフォードさん」
だがしかし、美久は見つけてしまったのである。
「――っ」
重傷を負っているマリアを抱えた霧華が、民衆の奥から路地裏へと入って行く姿を。
美久はすぐに駆け出して、彼女が入って行った路地へと足を踏み入れていく。
「待って!レイフォードさんっ」
「……」
路地を曲がったのを見て、美久は勢い良く同じ路地を曲がる。
だがしかし、視界には既に霧華の姿は無かった。
再び路地の外へと出ると、崩れた建物を撮影する野次馬に埋もれていた。
憚れてしまった道を苦労して進み、人の少ない場所に出れた時には既に見失ってしまった。
「レイフォードさん……」
見つからないまま美久は帰宅し、ベッドに倒れ込むようにしてダイブした。
そのまま疲労感に襲われて眠ってから数時間後、彼女の携帯には一通の通知が来るのであった。
『また会える日まで。――さよなら』
――彼女の携帯へとメールを打った少女は、血に塗れた彼女を抱えて歩き続けた。
それから彼女、霧華という少女を見た者は誰も居なかった。




