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【完結】奴隷少女は、笑わない  作者: 三城谷
第二章【可愛らしい獣は、毒の牙を隠す】
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『空虚な瞳は嫌悪を隠さない』

 『――本日未明、発見された遺体には薬物が投与された形跡があり、警察は他殺か自殺かの線で調査を続けております。さて、次のニュースですが……』


 ある朝食の時間、そんなニュースが報道されていた。私の記憶上では、さっきのニュースにあった事をした覚えはない。

この辺りの管轄は今私のはずだけど、他の誰かがテリトリーを無断で拡大させたのだろうか。


 「マリ、お皿を洗って置いてくれる?私は少し出掛けて来るから」

 「ど、何処へ?」


 出掛ける際、彼女に一言だけでも言わないで出た瞬間、一人でパニックを起こす可能性がある。

その可能性が無くはないという程、彼女は何かに怯えきっているのだ。


 「――少し人と会ってくるだけ。心配しなくても、夕方には帰るから」

 「う、うん」


 彼女は一体、何に怯えているのだろうか。

朝食の時も、じっとテレビを観ていたが……。

まぁああいう事件があると、一人になるのは恐怖を覚えるだろう。

けれどこの屋敷は……多分、狙われる心配は無いだろう。


 「……じゃあマリ、行って来ます」


 あの人にも言った事が無い言葉。

私はそれを躊躇わず口にして、気付けばそっと手を伸ばしていた。

かつて私がされた事、彼女に与えるようにして……。

――そうか。

何か違和感が拭えないと思ったけれど、彼女はきっと似ているのだろう。

あの頃の私に。あの人に出会う前の私に……。


 「行ってらっしゃい。お姉ちゃん」


 そんな言葉を背に受け、私は照りつける太陽の光を傘で遮断するのだった――。



 ◆◆◆



 「おや?おやおやおやぁ?誰かと思ったら、根暗人形の霧華じゃないか。こんな所で何をしているんだい?」


 黒色の傘で視界を二分して、空虚な瞳をした少女が歩いていた。

相変わらず嫌悪感のある瞳をこちらに向けて、開口一番で不機嫌な雰囲気を纏って口を開いた。


 「――何の用?」

 「君はまたそれかい?少しは挨拶が出来るようになったんじゃないのかい?一応君、僕の後輩だよ?僕は、君の、先輩だよ?オッケー?アンダスタン?」

 「うるさい。気が散る」


  彼女は淡白にそう言った。

そう言うけれども、彼女はその場から離れようとはしない。

罵倒はしても、逃げる事はない。何故なら彼女が呼んだのだから……。


 「またそんな事言って。まさかとは思うけど、君のご主人様にもそんな口を利いているのかい?」

 「あの人と貴方を一緒にしないで。貴方と同等の価値ではないから。マスターは私に生き方を教えてくれた人、貴方はその知り合いってだけ――何とも思ってない」


 彼女は無表情ではあるけれど、言葉に不貞腐れたような空気を纏う。

出会った頃からずっと、彼女は僕を目の敵にしているようだ。その理由は知らないけれど……。

まぁ、そう簡単に信用されるよりは遥かに良いだろう。

良くも悪くも、この業界では『信用』というのは鬼門と呼ばれているのもある訳だしね。


 「ところで霧華、君に面白い話を持って来ているのだけど聞くかい?」

 「面白い話?……あぁ、仕事?」

 「そうだけど、半分は不正解だね。僕は前置きを大事にする男だからね」

 「別にそんな事は聞いてない」

 「そうかい?まぁそれなら別に良いさ。君は『スカーレット』って名前に聞き覚えはあるかい?」

 「スカーレット?…………役所に居るリストの中に、確かそんな名前があったような。それがどうかしたの?」

 「その人、死んだらしいよ。白目が真っ赤になっていたし、鑑定の結果は毒殺だね。寝ていた所か、あるいはそれ以外で首筋に打ち込まれたらしいね。君も見るかい?一応、写真あるよ」


 そう言って、僕は彼女に封筒を差し出す。

彼女はそれを受け取り、溜息混じりに中身を覗く。

封筒の中身は、言ったとおり写真が入っている。だけど、それだけじゃない。

僕はこれでも、頼まれた事はきっちり行動に移すタイプなのだ。


 「――分かった。一応、感謝」

 「じゃあ今夜、いつもの時間で」

 「分かったけれど、また演技をする必要があるの?」

 「カモフラージュには必要不可欠だよ。そのつもりでお洒落でもしてくると良い」

 「…………」


  無言で睨む彼女を尻目に、僕はその場から離れようとする。

だが振り返る直前、ふと思い出した事を彼女に告げてみる事にした。


 「そういえば、君の周りで猫が迷い込んだりしてないかい?大人しいのにも関わらず、妙に物分りが良くて、それでも相手を警戒する事をやめない臆病な性格の猫なんだけど」

 「随分、具体的な猫像。まるで人間じゃない。名前は何ていうの?」

 「それは――」


 僕が名前を告げると、彼女は目を細めて一言だけ応えた。

――それは本当に猫なのか?と。

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