『嫌悪に包まれた目』
「――以後、お見知り置きを。そして、さようなら」
カチャリ、と音を立てるマリアの手元で光る黒い物体。
ゴーストの目の前でそれを向けるマリアは、殺意の込められた良い眼をしている。
その眼の雰囲気はどこか、ここには居ない誰かに似ているように見えたのである。
「フハハッ……!」
すぐに鳴り響いた銃声の前で、微かに聞こえた彼の笑い声。
その声と一緒に銃声が響く中で、マリアは目を見開いていた。
「……っ!?」
何故ならマリアの視界には、眼前まで迫ったゴーストの笑みが迫っていたからだ。
そしてマリアは気付いた。自分の身体から温かいそれが流れている事を。
銃声よりも早く近付かれ、自分の身体に刃を突き刺された事に――気付いたのである。
「ぐっ……どう、して……?!」
マリアは腹部から流れる血を押さえながら、そう叫ぶように問い掛けた。
その問いを聞いたゴーストは、浮かべていた笑みを消して苛立ちを見せて言った。
「どうして毒が効かないのか?って聞きたそうな顔だね。残念ながら毒は効いてるよ。だけどボクらが生きているのは、撃ったり撃たれたりっていうのが当たり前の世界なんだ。キミが今まで生きて来た世界のような光に包まれた場所じゃなく、ドブネズミがうじゃうじゃ暮らす地下水路のように闇に染まった世界だ。……キミも一応、その世界の一端を見たと思うんだけどねぇ?――!!」
そう言ってゴーストは、冷ややかな眼差しを向けたままマリアに刺したナイフを押し込む。
「っぐあ……うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」
「フハハハ。イイね、そういう声が聞きたかったんだよ、マリア・スカーレット!キミの眼は彼女にそっくりだ。殺意の中に光を見るような目。絶望しながらも、心のどこかで希望を願っている目。こうして痛め付けられても、絶えず向ける反抗の眼……――とてもそっくりだよ、ホントに」
睨み付けながら吐き捨てられた言葉。
そこにあるのは復讐心にも似ている圧力を感じ、押し込められる痛みはさらに増す。
痛みに耐え切れなくなる寸前、ゴーストはマリアからナイフを抜いて蹴り飛ばした。
「がはっ……うぅぅ……(痛い、痛い、痛い……でも、戦わないと)」
「気に入らないよ、本当に。どいつもこいつも、ボクの邪魔をするとか舐めてるの?」
「……はぁ、はぁ……はぁ……くっ(う、動けない)」
ゆっくりと近寄るゴースト。
一歩、また一歩も近付く足音はマリアに絶望を近付けさせる。
腹部を深く刺された事で、既に致死量の血液を消費しつつある状態。
今のマリアでは、動く事も反抗する事も出来ないだろう。
「はぁ……はぁ……(い、意識が)」
「ボクの邪魔する奴は、誰であろうと許さない。――そう、誰でもね」
足元に転がるマリアには、もはやゴーストから逃げる力も入れられない。
無理に逃げようとすれば、今よりも深い傷を負う事になる事も分かっている。
抗いたいという感情が勝っているが、それには身体を動かす事には始まらない。
「ぐっ……ぅぅ」
未だに流れ続ける赤い水溜りの上で、上げられたナイフに視線が動く。
ゴーストは躊躇なくそれを振るうだろう。マリアという名の少女を殺す為に。
それを理解しているマリアは、ナイフを掲げるゴーストに手を伸ばして言った。
「――ごめんなさい、お姉様。先に、逝っています」
ナイフは……振り下ろされた――……。
『……それは駄目だよ、マリア。――絶対に許さない』




