『表裏一体』
「はぁ、はぁ、はぁ……っ」
『起きないのかしら?』
「……はぁ、はぁ……う、るさい」
『あの子……きっと死ぬわ。ゴーストとマスターは手強い相手よ。あの子一人で勝てる程、甘くないのは知ってるはずよ』
「……分かってる、から……すこし……黙って!」
意識を取り戻す前に数分が経過しているはずだ。
そう思いつつも、大した時間は経過していない事を祈る霧華。
何故なら、眠っていた時間が長ければ長い程に彼女の生存率が下がるからだ。
「……ぐっ……!」
『完全に手足が麻痺してる。幸い、義手は動くけど……その状態でどうする気?』
「たす、ける……マリア、を……助けに」
『無理よ。今の貴女じゃ、あの子の補助も出来ないわ。ここで大人しく待つ事ね』
「っ……くっ」
頭の中で響く言葉を聞き、這いずる為に軸にしていた義手を握り締める。
微かに力を入れれば、起き上がれる程度には動ける。だがしかし、それだけだ。
激しく動く事も出来ない以上、その声の言う通りで何も出来る事は無い事は自覚している。
『せっかくあの子に庇ってもらった命よ。大切にして、ここから逃げる算段を立てた方が』
「――ふ、ざ、けるなっ……私は貴女で、貴女は私だという事は知ってる」
『っ……!?』
内側で宿っている霧華のもう一つの感情。
それは表の彼女が持っていない感情を持ち、鏡合わせにしたようにそっくりだ。
だがしかし、似ていない。何故なら、表と裏は表裏一体だとしても感情は別のものだ。
人格が出来始めている以上、それはもはや別の誰かという他人が出来上がってしまっている。
「……でも、マリアは……私たちとは、違う……」
『あの子は立派な人間よ。……手を出す必要は』
「マリアはっ……私、たちの、妹だからっ」
『――!』
「だからっ……助けない、と……駄目。じゃないと、後悔、するから」
霞んだ視界と曖昧な思考状態のまま、霧華は真っ暗な通路へと向かう。
全身が動かない状態にもかかわらず、一度も迷う様子も無く彼女が走って行った方向へ進む。
そんな様子を見つめていたキリカは……奥歯を噛み締めて、拳を強く握り締めて声を上げた。
『っ……でも、どうしようも無いじゃない!!私たちは麻痺の効果で動けないし、あの子が何処に行ったのかも分からない。仮に間に合ったとしても、そこからあの子を護りながらあの人たちに勝てるビジョンが見えないのよ!!!』
それを聞いた霧華は、目を見開いた。
自分自身の姿をしたもう一人の自分が、投影されたかのように目の前で叫んだからだ。
実体は無い。ただの幻だと理解していても、それでも確かにキリカという存在はそこに居る。
ただ分かるのは、自分の中にある感情が凄く熱くなっている事だけだった。
「……じゃあ、一緒に戦うのは?」
『え?』
「今までは、別々で……戦ってた、けど……今度は、二人で、戦うのはどう?」
『二人で?私は、貴女の裏なのよ!?実体の無い私じゃ、あの子を助ける事がっ』
「だから、だよ。……実体が無いなら、作れば良い。簡単な、話。……私は身体を、貴女が思考を。適材、適所……」
『……!』
その言葉を聞いたキリカは、足元で這いずる霧華を見開いた。
そんなキリカへと手を伸ばした霧華は、芽生えたばかりの感情を出して言ったのである。
一緒に、行こう――と。




