『芽生えた感情』
「……んんっ――っ、お姉さまっ」
「っ……!」
霧華の口の中に伸びるマリアの舌は、容赦なく舌に絡み付こうとする。
これ以上は駄目だと引き剥がそうとしても、霧華の身体は既に反抗する様子が無かった。
それもそのはずだ。何故なら、霧華の視界は既に霞んで麻痺しているのだ。
「…マ…リア……っ(上手く声が出せない。完全に油断してた)」
「お姉さま。メイドである私が、このような行為をする事をお許し下さい。でも私は貴女を――お姉さまをお慕いしているのは本当です。それだけは、信じて下さい」
マリアが取った行動は二つ。
一つは霧華の唇を強引に奪い、キスをして押し倒した事。
もう一つは、その拍子にある薬品を霧華の身体の中へ流し込んだ事。
「……(意識が遠退く。駄目……何をするつもりなの?マリア!)」
霞んだ視界の中でメイド服を捉え、残された力でマリアの腕を掴もうとする。
だがその手はマリアの手に遮られ、逆に両手でマリアは霧華の手を包み込んだ。
まるで、病人の患者を安心させるように。
「そんな顔をしないで下さい。私は貴女のメイドであり、この瞳も手も足も、全てが貴女のモノです。そして私の心は既にお姉さまの元へお渡し致しました」
「(っ……マリアを行かせては駄目だ。私がこの子に手を差し出したのは、こういう事をして欲しかったからじゃないっ!私に持っていない物を持っていたから……私とは違う形の人生を歩めると思ったから、死なせては駄目だと思ったからっ)」
薬は麻痺だけではなく、睡眠薬も霧華は盛られている。
その為、五感は正常には働く事は無いし意識を保つ事は困難だろう。
だが霧華は必死に抵抗し続け、マリアの手を握ろうとした。
「……(だから……行かせちゃ、駄目……)」
それが霧華が唯一、初めて露にした感情に気付いた。
血の繋がりは無く、ただの他人であって本当の妹ではない存在。
だがすぐ近くで過ごした日々を省みた瞬間、霧華はそれに気付いたのである。
「お姉さま……?(お姉さまに手が握られて。薬はとっくに回ってて、動けないはずなのに)」
――これが裏も表も無い、純粋な愛情だと。
「……行か……ない、で、マリア」
「っ!?」
そう言った瞬間、霧華の手は力を失った。
握り返したのはほんの一瞬だが、それは確かにマリアに伝わっただろう。
何故なら、寝息を立て始めた霧華の目元には微かに光る宝石の粒が流れていたのだから――。
「っ……ごめんなさい、お姉様。……行って来ます」




