『募った愛情』
周囲が騒がしくなっている。いや、わざと騒がしくしているのだろう。
爆発物の爆発音と一緒に響いているのは、二つの足音だというのを把握する。
「二人、こっちに向かって来てる」
「お姉さま、どうしますか?」
「マリアは撤退準備をして。私が時間を稼ぐ」
部屋から出ようと準備した瞬間、私の片腕は引っ張られた。
その動きを制止するようにして、腕は引っ張られていたのだ。
「何?マリア」
「お姉さまだけに任せて、自分はさっさと逃げるなど我慢出来ません。私にも、何か役に立てると思います!」
「気持ちは有り難いけれど、危険だから止めた方が良い」
「それは、私が弱いからですか?」
「……」
確かに、戦力が多いに越した事は無いのは重々承知している。
だけれど、私自身の実力と彼女の実力の間には大きな溝が存在している。
育った環境が違えば、他者の間に明確な差異が生じるのは必然だからだ。
「そう。マリアは私より弱い」
「っ……それでも、自分の身は自分で護ります!一緒に戦わせて下さい、お姉さま」
真剣な表情と眼差しなのは、十分に伝わっている。
生半可な覚悟でもなければ、気休め程度に思っている訳でも無い。
自分の事は自分でなんとか対処出来ると、公言しているのがその証拠だろう。
だがしかし、今から戦う相手はそれ相応の覚悟だけでは足らない相手だ。
「駄目。マリアは撤退、足手まといにしかならない」
「っ……どうしても駄目でしょうか?私では、お姉さまの役には立たないと?」
このまま拒否したとしても、恐らく彼女は着いて来てしまうだろう。
しかし走りながら撒いたとしても、爆発の中で逃げ切れる保証は何処にも無い。
死ぬつもりは無いように見えているのにしても、足手まといという結果は変わらない。
「――役には立つ。けれど」
「けれど、何ですか?」
役には立つ。それは嘘ではない。
だがこれでは恐らく、あの頃と何も変わっていない。
このまま連れて行ったとしても、私が彼女の扱いを間違えればそれまでだ。
「っ……?」
そんな事を考えていた時だった。
私の頬に添えるようにして、彼女の手がスルリと伸ばされていた。
思考を働かせるのに夢中になっていた私は、彼女の行動に反応する事が出来なかった。
そのまま彼女は手を添えたまま、目を細めて言うのである。
「私はお姉さまのメイドです。存分に使って下さい。例え私を道具として扱っても、囮に使ったとしても、私はお姉さまを咎める事は致しません。私はあの日、死んでいたかもしれない身です。それを救って下さったのも、生きる術を教えて下さったのもお姉さまですよ。ならば最期まで、お姉さまとしての責任を取って下さいませんか?」
「っ……!?」
「お姉さま……――んん……んっ……れろ……っっ」
記憶の中で、キリカとしての記憶が浮上してくる。
私は一度、同じようにして彼女の唇を奪っているのだろう。
だがその時の記憶よりも、彼女の思いが鮮明に伝わって来る。
「んん……マリ、ア……」
「お姉さま、私はお姉さまを愛しております」
気が付けば私は、彼女に押し倒されるのであった。
まるで恋人のように互いに愛情を求め合いながら――。




