『教育係』
幼い頃、未だに彼女がまだこの世界に足を踏み入れた頃。
少年は、彼女の事を受け入れ難い存在だと認識していた事がある。
少年の名は無く、だが仕事をする上で名前が必要だった少年はゴーストと名乗った。
「……貴方には、この仕事をお願いしたいですわ」
「汽車内での暗殺、ですか。これをボクに?」
「ええ、そうですわ。貴方にしか出来ない仕事だと思うのだけど……どうかしら?」
ゴーストを雇った女性、名前はジェシカ。
華麗なドレスで身を包み、薄ら笑みを浮かべる彼女。
そんな彼女の後ろで、部屋の隅で体育座りで無口となっている少女。
――その少女が、霧華である。
当時の霧華は今よりも無愛想であり、ボロボロな服で身を包む。
そんな無口となっている少女をチラ見したが、彼は手渡された書類を受け取る。
「分かりました。ボクの出来る範囲でやりましょう」
「ええ、期待しているわ」
「ところで……」
ゴーストはそう口を開いて、視線だけでもう一度少女へと見る。
その視線の先に気付いたジェシカは、小さく笑みを浮かべながら言った。
「あぁ、あの子の事は気にしなくて良いわよ。あの子はこれから、仕事に入る為の準備をする所よ」
「仕事の準備……という事は、彼女もボクの同僚になるという事ですか?」
「確かにそうなりますわ。あの子の面倒は後程、頼むかもしれませんね」
「面倒な事を頼む予定を聞かされるのは、ボクの気分を下げる結果を生むかもしれませんよ」
それを聞いた彼女は、ニヤッと口角を上げる。
確かに面倒事が後である、という事を知らされれば気分は下がる。
いや、下がりやすくなるという可能性はあるのだろう。
「その心配は無いでしょう。貴方は依頼された仕事は遂行するのでしょ?」
「依頼されて、給金を頂ければ……という前提ですが」
「ならば問題はありませんわ。さて、例の場所にお土産を置いておきました。仕事の際、有効活用をして下さい」
「分かりました。この仕事が終わり次第、彼女の話を聞かせて下さいますね?」
「ええ、勿論ですわ」
そう言葉を交わした彼女は、その部屋を後にする彼を見送る。
彼はその部屋から出て外へと出ると、貰った書類を仕舞って歩み出す。
その仕事の後、ゴーストは霧華の教育係としてジェシカから紹介されるのであった。
「っ……」
「踏み込みが遅い。ボクに一撃入れる事すら、その程度じゃ無理。やる気が無いなら帰ったら?」
「……!!!」
「おお、良い気迫だね。でもボクには通用しないかな」
「んっ!?」




