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【完結】奴隷少女は、笑わない  作者: 三城谷
第二章【可愛らしい獣は、毒の牙を隠す】
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『微かに感じたのは鉄の匂い』

 小さな身体の少女は、警戒するように視線を張り巡らせる。

周囲に何があるのか、物の配置はどのようなものかと、視界の中にある情報を収集していく。

この頃の霧華では、マリの隠れた才能を見抜く事は出来なかっただろう。

まだ洞察力や視野が狭い状態では、この時点での霧華では難しい。

だからではないが、霧華にとってマリと過ごした日々は、良い経験になっただろう。


 「じゃあマリ、まずはお風呂に入ってくれる?私は部屋の掃除をしなくてはならないから、貴女のお世話をするのはまた後になるけれど……良い?」

 「は、はい。も、勿論大丈夫です。というか気にしないで下さいっ。あ、でも、えっと……」


 マリは言葉を探しながら、ぬいぐるみを強く抱き締める。


 「け、けど、あの……そのお風呂の場所、何処にありますか?」

 「…………あぁ、失念してた。どうも接客には慣れなくて、大事な手順を踏み忘れていたわ。今案内するから、着いて来て」


 霧華は何食わぬ表情をしながら、口を開く。その表情は一回も変化はなく、マリはまるで人形と話しているのではないかと思い始めていた。

彼女がどういう人なのか、どういう「人間なのか」を気になり始めているのだった。

 そんなマリの事は気にせず、霧華は自分のペースで家内を進んでいく。

玄関、リビング、キッチン、そして割り振られたように並ぶ部屋。

部屋には数字が記されていて、この屋敷の見取り図は間違いなく元旅館のようなものだった。

または相当な資産を持っていた者が、住んでいたであろう屋敷で間違いないだろう。

だが通路には電気を点けず、蝋燭の灯りだけがゆらゆらと左右に揺れている。


 「――ここが貴女の部屋、で良い?」

 「え?」


 その声を聞いたマリは我に返ったが、案内された部屋を見て首を傾げた。


 「この部屋、使って良いの?」

 「何か問題でもあった?」

 「ううん、そんな事無い」


 寧ろ、今のマリには贅沢とっていい程の広さと充実感溢れる部屋だった。

そう思わざるを得ない程、家具もある広い部屋だ。今まで誰かが使っていたよう雰囲気がある。


 「じゃあ……私は貴女の着替えを見繕っておくから、マリはお風呂に行っていて?」

 「あ、はい。えっと……ありがとですっ」


 マリはぬりぐるみを抱き締めながら、霧華の横を通り過ぎて廊下を走る。

その背中を眺める霧華は、彼女の背中が見えなくなるまで廊下に佇んでいた。

ほのかに香る匂いが、鼻をくすぐる。

その匂いを嗅いだ霧華は、考えるように自分の指を唇に重ねて口を開いた。

目を細めて、それを確かめるように……。


 「これは…………血の匂い?」


 そう一言だけ、霧華は一人で呟いたのだった。

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