プロローグ
雨が降っている。重たい雨粒が、地面を叩く音が聞こえる。
その雨の中で、一人の少女は立ち尽くす。自分の足元に転がるそれを見て……。
「……もう動かないんだね?」
少女はそう呟き、小さく口角を上げる。だがしばらくして、溜息を吐いた。
「……だめ。全然笑えないなぁ。楽しかったけど、貴方との思い出は軽すぎて、薄いもの」
少女はそれだけ言って、その場から姿を消した。
残されたそれは、雨に打たれ、徐々に赤い水溜りを作っていく。
残されたそれは動く事無く、明日の情報誌にただ載るだけ。
首筋の頚動脈を切断され、その他に外傷が数ヶ所。腕や足にも切り刻まれた痕がある。
少女はただ笑える環境を欲しがるのだ。だがそれは、ただの望みであり、羨望。
羨む事しか出来ない少女は、自分の出来る事でそれを補おうとしたのである。
彼女の得意な事といえば、『他者を殺す』という行動そのものである。
「あら、霧華。おかえりなさい」
「マスター、ただいまです。下さった指示は、クリアですか?」
真夜中の道を進んでいく途中に、まだ明るい建物の中へと入る。
するとそこには、紅茶を優雅に飲む女性の姿があった。赤いドレスに身を包む。
まるで全身が全て、『赤』という一色で出来ているかと勘違いするほどに……。
「霧華は良くやりましたわ。雨に濡れたままでは風邪を引きますよ?すぐに湯浴みを済ませなさい?明日は外出しますわよ」
「どちらにですか?マスター」
彼女は紅茶を飲み干すと、不敵な笑みを浮かべて少女を抱き締める。
そして少女の頭を撫でながら、耳元でニヤリと笑って呟いた。
――とても楽しい所よ、と。