0.それは嵐の前触れに過ぎない
幼なじみってどういうものなのでしょうね。だいたいは年と共に疎遠になるような気がします。
新シリーズに挑戦してみました。
0.それは嵐の前触れに過ぎない
side未七海
「俺さ、結婚しようと思うんだけど。」
「へえー、おめでとう。相手はこないだ付き合い始めた受付嬢かな?」
「あり得ない。あいつとは昨日別れた。」
付き合ってから1カ月も経ってないと思ったけど、まあ、こいつならよくあることだし。
「じゃあ、もう新しい彼女できたの?いくら何でも結婚するには早すぎない?」
「早すぎない。俺も28になるし、相手も同じだし。」
「いや年齢のことじゃなくて、付き合いの長さを言ってるんだけど。」
「問題ない。そいつとは産まれた時から一緒だから。」
こいつのその言葉に、私はとてつもなく嫌な予感がした。
「君は誰と結婚しようとしてるのかな?」
「もちろん、お前と。」
幼なじみの爆弾発言に、動揺を隠せない。冗談にしては質が悪いし、そもそもそういう冗談を私に言うような奴でもない。
「本気で言ってるの?」
「本気に決まってる。じゃなきゃプロポーズなんてしない。」
おいおい待てよ。プロポーズなんかされましたかね?もしかして今の流れがプロポーズですか!?
「何でそんなにショック受けてるんだ?そんなに嫌だったのか?」
なんであんたの方がショック受けたような顔してんのよ。
「嫌とか、それ以前にプロポーズが雑過ぎて・・・理想と現実の差がすごいなと思っただけよ。」
「嫌じゃないなら、俺と結婚してくれるんだな。」
「それとこれとは話しが別だよ!なんでいきなり結婚なの?私達ってそういう関係だったことなんてなかったでしょ?」
私はこいつに恋愛感情を持ったことなんて一度もない。私にとって家族という枠に組み込まれている。
「だって結婚したくなったんだもん。」
だもんってなんだ。その顔で上目遣いで言われれば、大抵の女は母性本能をくすぐられ、コロッと落ちるかもしれない。だが、私には効かない。
「結婚したいなら尚更、好きな人としなよ。」
「俺、お前のこと好きだよ。」
こいつわざと言ってるのかな。私の言ってる好きは家族的なやつじゃない。ライクではなくラブなやつだ。
「だから、その好きはさぁ、姉とか妹とかなんか親戚とか家族みたいなのでしょ?」
「家族?俺はお前のことそんな風に思ったことないけど。」
うわぁ、何気にショックだ。私はずっと家族以上に家族だと思って大切にしてきたつもりだったのに。向こうは家族なんて思ってくれてなかったんだ。
「俺は今、お前と家族になりたいとは思ってる。」
「だから、なんで私なの?」
この幼なじみと結婚したいと思っている女はきっと山程いるに違いないのに、何故、私を選ぼうとするのかが分からない。
「それはお前が特別だから。」
特別?何それ?初めて聞きましたけど。
「昨日、山根と呑んでて気づいた。俺って、恋愛に関しては熱しやすく冷めやすいだろ。彼女への興味が長続きしない。すぐ飽きて面倒になる。」
それは知っている。最短3日で最長でも5カ月だ。半年ももったことがない。
「所がだ、未七海には全く飽きない。今でも興味がつきない。」
だってほら、あれだってね。私はあんたの彼女だったことなんてない訳だし。
「私と彼女達とは立場が違うと思うんだけど。」
「じゃあ、俺と結婚を前提に付き合って下さい。」
イケメンに真剣な顔でそんなこと言われて断れる女子はいないだろう。
「だが、断る。私はこのままの関係がいいです。」
「だが、断り返す。」
なんでよ。だってさ、うっかり付き合っちゃって、やっぱり飽きましたなんて展開になったら、修復不可能な関係になるじゃん。しかも恋愛感情もなしに付き合うのも抵抗あるしな。
「だって、未七海が他の奴と結婚するとかあり得ない。」
あり得ないって、それは私には結婚できないって意味か?
「売られた喧嘩は買うけど。」
「そういう意味じゃねーよ。俺が嫌だってこと。」
「何か、恥ずかしくなってきた。私が一哉に口説かれてる気がしてきた。」
「さっきから口説いてるんだよ。」
「でも幼なじみなら、もう1人いるじゃん。咲乃ちゃんが。」
私と一哉は赤子の頃からの付き合いだが、咲乃とは幼稚園からの付き合いになる。私と違って咲乃はバリバリ恋愛感情を持っている。
「あいつに興味はないな。むしろ関わりたくない。」
昔から一哉は咲乃に冷たい。理由は分からない。聞いても教えてくれないしね。
「とにかく未七海は、今日から俺の婚約者だから。よろしくな。」
・・・コンヤクシャ?
「こんにゃく?」
「婚約者、フィアンセだ。」
「私は了承してないよ。」
「そうだな。でもお前に拒否権はないんだ。もう、おばさん、おじさんにも許可貰ってるし未七海。うちの両親にも報告済みだから。」
な、なんだとー!?
「いや、お前が簡単に結婚してくれるとは思ってなかったから、まず外堀から固めようと思って。」
爽やかな外見には似つかわしくない黒い笑みを浮かべた男は、どうやら私を逃すつもりはないらしい。
プロローグ的な感じでしょうか?