4. うらめし めでたし おばけ屋敷
「いやあ、ありがとう、助かったよ」
と一つ目小僧が額の汗をぬぐう。
「うん、本当に。ヒカルに言われたとおりお客さんを案内したらお礼を言われたよ」
と人魂が照れくさそうにポワポワ燃える。
「そうそう。ヒカルが照らしてくれたからお客さんと絡まった首をほどくことができたんだ」
とろくろ首がこぶ結びをほどく。
「あたしなんか、お客さんが手を振り回すもんだから、顔をなでられまくって困ってたんだよ。ありがとね、ヒカル」
とのっぺらぼうが消え残った口でにっこり。
「見えないから日傘と間ちがわれて連れ去られるところだったよ。あぶなかった」
と唐傘おばけが傘をバサバサ。
「なにより、大切なお客さんがみんな無事だったのはヒカルのおかげニャ」
と化け猫がス~リスリ。
「ううん。もとはといえば、ぼくがくしゃみをしたのがいけないんだ」
ヒカルがしょんぼりしていると、頭をなでなでする手がありました。見上げると社長が立っています。
「くしゃみのもとを渡したのはわたしだ。効き目もわからないものを渡したばっかりに、みんなに迷惑をかけてしまった。もうしわけない」
「いえ、そんな! ぼくはとっても嬉しかったんです。たしかに効き目はなかったけど……って、あれ? 社長、ぼくといてもだいじょうぶなんですか?」
「フフフ。これだよ」
社長は得意げに目元を指差しました。真っ黒なサングラスをかけています。
「社長。ど、どうしたんですか、それ!」
「どうだ? 似合うだろう?」
「ええ、かっこいいです……けど」
「お客さんの落し物さ。これは返すが、わたしも買おうと思ってな。なにもヒカルが変わらなくたっていいんだ。わたしがサングラスをかければいいだけさ」
「それでもぼくはおばけらしくないし、こんなにピカピカしていたら会社の役に立てません」
「おや。いま役に立ったばかりじゃないか。大活躍だったよな、みんな」
おばけたちは笑顔でうんうん頷きます。
「あの誘導はヒカルじゃないとだめだった。ヒカルだったからできたことなんだよ。仲間とちがう個性は別にハンディキャップじゃない。たしかにヒカルはみんなとちがう。でも、ただそれだけのことさ。《株式会社ヒュードロドロ社》のためにいい働きをしてくれたね。ありがとう、ヒカル」
ヒカルは嬉しくてボロボロ泣きました。いつもよりよく光っています。
「ありがとうございます……ありがとうございます……」
おばけたちが笑いながらヒカルを囲みます。
「――ところでみなさん」
社長秘書のコウモリが頭の上をクルクル飛び回りながら声をかけました。
「盛り上がっているところ悪いんですがね、こいつ、どうしましょう?」
そう言って、コウモリはゾンビの前に伸ばされた腕にぶら下がりました。
落ち込んでいるからなのでしょうか。それともゾンビのポーズなのでしょうか。お兄さんは、肩を落とし、背中を丸め、うつむいています。
社長をふくむ全員が「ああ……」と低い溜息をつきました。
「う~ん。わたしに責任があるからなぁ」
社長は腕を組んでうなりました。
「そうだなあ、きみはどうしたい?」
お兄さんがパッと明るい顔になりました。
「じゃあ、ここで働かせてください! 就職が決まらずに困っていたんです!」
おばけたちは口々に「えー。でもゾンビって和風おばけ屋敷に合わなくない?」などと言っています。
しかし、そこはさすが社長、ビシッと答えました。
「よし、ゾンビくん。きみ、採用!」
「あ、ありがとうございますっ!」
まったくなにが幸いするかわからないのが世の中。
「ゾンビくんの入社を機に、わが《株式会社ヒュードロドロ社》は和風おばけ屋敷をやめて、国際色豊かなおばけ屋敷にしようじゃないか! これからはグローバリズムの時代だよ」
こうして、《株式会社ヒュードロドロ社》は新入社員も迎え、新たなステージへ突入しました。
おばけレジャー施設、《ヒュードロドロ・ランド》は連日大賑わい。〈東洋エリア〉と〈西洋エリア〉のどちらのおばけも大人気です。
ヒカルも屋根の上の看板に腰掛けて、お客さんをお出迎え。たちまち人気者になりました。屋根の上で宙返りをしたり、ピカピカ光って注意をひいてみたりとサービス満点。
今日も明日も明後日も、《株式会社ヒュードロドロ社》は明るく元気なおばけたちが働きます。
「寄ってらっしゃい。見てらっしゃい。さあさ、世にも楽しいおばけ屋敷だよ!」
(どろん)




