第8話 食後のお茶に
あ~~~~まったりする。
宿舎の食堂で飯を食った俺達はのんびりと食後のお茶を楽しんでいた。
大きな食堂だ。 たくさんのテーブルと椅子が並んでいるが狭いという印象を与えない。さっきまでは多くの選手やその関係者、そして武闘大会の関係者が飯を食っていたがみんなそそくさと食い終わったら出ていってしまった。これから戦う相手だからとか忙しいからとかあるのだろう。
「ここのお茶は美味いなー。」
「こんなのは安物よー。クソ勇者は味覚もクソよねー。私なんてほらアレだからこんなのじゃ満足出来ないのよねー。没落したものだわー。」
「おいおい、うちのパーティをまるで最下層みたいな感じに言うなよなー。今を受け入れようなー。」
そりゃ魔王だったからいいもん食ってたんだろうから仕方ないところもあるのかね。
お茶の魔力か、午後の陽射しのせいなのか言い合いにも覇気のないふたり。
隣ではファフィーがアイスクリームを食べている。どんだけ食うんだろな?
「君かいヒノキの棒で戦っているのは?」
金髪でいかにもボンボンといった感じの青年が取り巻き達と一緒に俺達の近くで止まる。
「恥ずかしながらその通りだ。直視したくない事実だけどな。」
「本当にそうだね。ここは世界を救う勇者を決める大会なんだ。君みたいなみすぼらしい庶民が来るところじゃない。次の試合でそれを証明してあげるよ。」
ニヤニヤと嘲笑を口元に浮かべる男。キザったらしいく髪をかきあげる。
「なんだ、あんたは次の対戦相手だったのか。」
「なっ! 随分と余裕があるみたいだね。それとも遊びで来てるのかな? 」
顔を真っ赤にしてるが、なんとか余裕を取り繕う努力をしているようだ。取り巻き達なんかすげえ睨んで来てやがる。
「悪いな。こっちも色々とあってな。対戦相手の確認すら出来てなかった。怠慢だと罵られても返す言葉がない。」
「色々とだって? どうせそっちの女2人とよろしくやってたんじゃないのか? いくらだったんだ? 君みたいな奴でも買えるんだから安かったんだろ?」
おい、コイツ今なんて言いやがった?
奴隷とか娼婦扱いしやがったのか?
「お嬢ちゃんも大変だね。こんな奴に好き勝手やられてるんじゃね?」
「うん? 」
この野郎はファフィーにも腐った息を吐いてぺちゃくちゃと!
ファフィーはアイスクリームに夢中で話を聞いてなかったのが救いか。
「おい、腐れ野郎。俺の仲間をそれ以上侮辱するな。汚ねえ舌を引っこ抜くぞ!」
言った途端に腐れ貴族のボンボンも取り繕う事が出来なくなったようだ。真っ赤な顔にありありと怒りを浮かべる。
「貴様! この僕に向かって腐れ野郎だって? 僕は大貴族のバーレス家の長男、サンドラ・P・バーレスだぞ!」
肩を怒らせて名乗る腐れ野郎ことサンドラ。今にも腰のレイピアに手が伸びそうな感じだ。食堂に残っている数少ない人達も何事かとこちらを注目している。
「知らないな。それよりも俺の仲間を売女扱いした事を謝れ。」
「知らないだと! 舐めた奴だ。僕は魔剣士のサンドラだぞ。売女を売女と言って何が悪いんだ。仲間とか見栄を張るなよな。この庶民が!」
もう許せねぇ! この腐れ貴族の顔をボコボコにして沼地のカエルよりも醜い顔に変えてやる!
「お兄ちゃん達、喧嘩はダメだよ?」
怒りを拳に乗せて奴の顔面を殴る寸前でファフィーが割って入ってくる。
「引っ込んでいろこの奴隷が!
サンドラが手を振りファフィーを突き飛ばそうとするも微動だにしない。
「あっ」
ファフィーから小さな悲鳴が漏れる。ファフィーの手からアイスクリームが落ちて床にぶちまけられている。
「ふ……ふん、試合で恥じ掻かせてやるから逃げるんじゃないぞ。」
微動だにしないファフィーに怯んだのか捨て台詞を吐いて消えるサンドラ。
誰が逃げるかってんだよ。
「ファフィーのアイス、
ファフィーのアイス~~~~~~~!」
ってファフィー!落ち着け!
癇癪を起こして暴れるファフィーを俺とマイヤで必死に抑えるのだった。
ちなみに食堂のオバチャンが新しいアイスクリームを持ってくるまで続いた。