第7話 衝突ランチタイム
険しい山を黒い何かが進んでいる。
立ちはだかる木をなぎ倒し、川を汚し、岩を弾き飛ばしてその群れは進んでいる。
いや、群れと言うよりもその統率の取れた動きは軍隊と呼ぶべきものかもしれない。
それは蛇の胴体に女の体が付いた化物だった。
それはネバネバした不定形の異形だった。
それは大きなニワトリに尾が蛇になっている魔物だった。
それは頭を二つ持つ大きな四足歩行の獣だった。
それは牛の頭に筋骨隆々な巨人の体を持つ怪物だった。
それらはこの世ならざる脅威だった。
それは進んでいく。整然と並んで進む。
邪神の軍勢が進軍する。
真っ直ぐとライル達のいるドリュッヘルを目指していた。
厳しい戦いだった。
本戦1回戦を終えた俺は控え室に戻ってくる。
「って言うか魔族の参戦もありなのかよ。」
1回戦の対戦相手は巨人族の、それも一つ目のサイクロプスの戦士だった。
彼らは5メートルの身長に体重は300キロという巨体で持って魔王に従って人間やエルフ、ドワーフなどの種族と戦った者達だ。ちなみに魔族というのは魔王に従った種族の総称だ。サイクロプスの戦士は右手にその体に見合ったサイズの鉄製の棍棒を持っている。そして俺は予選と変わらずヒノキの棒で戦った。目覚めたら試合直前で顔を洗う間もなく対戦相手と顔を合わせるハメになったんだ。
「それだけなりふり構ってられないってことでしょうね。」
そういうもんかね。
ぐぅぅぅぅ
俺の腹から情けない音がする。そういえば昨日から食事というものをしていない。
「みっともない音が聞こえたわよ。空腹くらい気合でなんとかしなさいよ。
「俺もファフィーを見てなければならなかったよ。」
肉と玉ねぎなどの野菜が交互に刺さった串焼きがファフィーの手の中で胃袋を刺激してやまない匂いを撒き散らしている。
「これはファフィーのだからあげないよ。」
サッと串焼きを隠すファフィー。仲間を背中で庇う戦士のような不退転の決意を感じる。決して串焼きを分けるなんてことはないだろう。
「取ったりなんてしないよ。なんか飯でも食いに行かないか?」
「金がないのによく言えるわねクソ勇者。私にたかる気なの? とんだヒモ野郎ね。」
「お前の持ってる金はパーティー共用の金みたいなもんだろ! 」
マイヤの奴は生き生きと俺を罵倒してきやがる。
「あれは私のヘソクリよ。断じてパーティーの金じゃないわ。ファフィーのご飯ならいいけどクソ勇者にご飯を買ってやるなんてごめんよ。」
「武器屋の修繕費で金貨の袋をポンと渡した魔王様とは思えないケチっぷりだな。戦いを終えてきたところなんだから飯くらい食わせろよ。」
バチバチとぶつかり合う視線。
お互い1歩も譲る気がない。
「やっぱり魔王と勇者が共に歩むことは不可能だったようね。」
ゆっくりと、だがスキのない動きで杖を構える魔王マイヤ。
「残念だがそのようだな。白黒つけてやる!」
ヒノキの棒を真っ直ぐ魔王に構える旅人の服を着た村人A、もとい勇者ライル。
「食堂に行かないの?そろそろご飯の時間だよ? お昼は何が出てくるのかな?」
串焼きを食べ終えたファフィーがのんびりと言う。
「ちょっと待っててねファフィー。クソ勇者に引導を渡したらタダ飯を食いに行きましょうね。」
「それはこっちのセリフだ! ってちょっと待て。今タダ飯って言わなかったか?」
信じられないセリフだ。それは前提条件を根底から覆す話だった。
「しまった! 言ってしまったわ。もっと引っ張りたかったのに。」
自らの失言に歯噛みするマイヤ。
「速く行こうよ。ファフィーお腹空いた。」
あの串焼きは腹の足しにもならなかったのか? まあいいか。飯を食いに行こうか。俺達はファフィーを先頭にして食堂に向かうのだった。
次回から毎週日曜日の13時に投稿する予定です。よろしくお願いします。