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第4話 勇者出陣、コロシアムに味方無し

 アウェイだ。見事に敵だらけだ。怒りに肩を震わせて大きなバスターソードを上段に構える男。離れた場所から罵詈雑言の嵐を起こす老若男女。彼らはほぼ毎日行われる予選を観に来た観客達だ。味方などいない。


「そんな得物で来るなんてあんたはこの戦いをなんだと思ってるのよ! ママンに話すお子ちゃま武勇伝のネタにしたいなら他所でやりなさいよ!」


 味方などいない。

 アッハッハと楽しそうに茶々を入れる罵詈雑言の魔王。酒をかっくらってご機嫌だ。隣ではファフィーが一心不乱にターキーに食らいついている。こっちなんてちっとも見ちゃいない。というかお前ら酒やターキーはどこで手に入れてきたんだ? 後で話を聞かないとな。


「貴殿がどういうつもりでそのような武器を持っているのか某には分からんが、遊びで来たのならその愚行を貴殿の命でもって支払って学習することになるであろう。」


 俺も愚行だと思う。なんせ武器はアレだ。棒切れなのだから。もっと詳しく言うならヒノキの棒だ。俺はソイツを相手の喉に突きつけるように中段で構えている。


 なんでこんな事になってるのかと言うと遡ること1時間前のことだ。俺達は武道大会の会場であるコロシアムにエントリーするためにやって来ていた。


「ここがコロシアムか。」


「正確にはドリュッヘルコロシアムよ。町の名前を冠したコロシアムね。」


 大きなドーム状の建物がデンっと建っている。記憶の無い俺でもこれが人の建てる建物の中では最大クラスに属する巨大建造物だと分かる。

 それはそうとこの町の名前はドリュッヘルだったのか。


「ダンジョンだーーー。ダンジョンダンジョンダンジョン!」


「コロシアムだ。大きな建物がイコールでダンジョンじゃないからな。」


 ファフィーの認識が危険すぎる。これがドラゴンの常識じゃないよな? ドラゴンの街への襲撃から財宝の略奪を冒険などと思ってないよな? ドラゴンの事を知るのが怖くなってきたぞ。


「そうよファフィー。ここはコロシアムと言って戦いを見るための娯楽施設でこの町の最大の収入源よ。だからこの町を攻撃するならここよ。財源を消してしまえばこの町の人間は干上がるかほかの町へ逃げていくのよ。それをプチプチ潰せば簡単に町は滅びるってわけよ。そうじゃなくても大打撃間違いないわ。」


「お前の考えが間違ってるんだよ! 滅ぼす方で考えるな!」


 俺達はそんな事を話しながらコロシアムのロビーに入っていくと正面のカウンターに勇者選出武道大会受付と書かれているのが目に入る。


「あそこが受付か。」


 俺たち三人は受付のお姉さんのもとに行く。


「ようこそドリュッセルコロシアムへ! 大会への参加ですか?」


「はい。俺が参加します。」


 お姉さんは慣れた手つきで書類などの用意をしていく。


「でしたら試験をしてもらいます。」


「試験って何をするんだ?」


「本戦と変わりませんよ。1対1の試合をしてもらいます。相手はこの街の騎士団長です。」


 キリリと眼鏡光るお姉さんの説明は続いていく。


「宿の無い人達が実力もないのに大勢やって来てしまったんです。看過できない事ではありますけどキリがありませんからね。切り捨てるしかないんです。まあ切り捨てるのは騎士団長なんですけどね。」


 笑えない話だ。つまりはこの試験を突破しないことには屋根の下で眠れないということか。むしろ土の下で眠るまであるようだ。


「その試験はいつやるんだ?」


「申請した日の夕方、つまりは1時間後になります。なので控え室で待機しててください。」


 しまった! 武器がないぞ。エントリーしてから用意しても大丈夫だと思ってたら甘かった。どうする?

 俺はやっべーみたいな目で二人の仲間を見ると……


「私に任せなさい。晴れ舞台にピッタリな武器を持ってきてあげるわよ。」


 パチンとウインクまで決めるマイヤ。その姿を頼もしいなんて思ってしまったのは不覚だった。なんせこのザマだからな。時間ギリギリにやって来たマイヤに武器を包んだ包を渡されていそいそとコロシアムに踏み込んだのが今ってわけだ。


 ブァーンと試合開始の銅鑼がなり、ついに始まってしまった。

 両者は構えたまま動かず相手のスキを伺う。上段に構えられた大剣はその力を解放する瞬間をいまかいまかと手ぐすね引いているようにも見える。きっと当たれば頭をかち割られてしまうだろう。


 何分経っただろうか? それとも1分も経ってないのだろうか? 殺気立った観客の声も心持ち静かになったような気がする。


「ヌぅぅぅぅん」


 騎士団長の上段からの振り下ろし。

 大剣はライルの眼前に迫るが、かすることなく振り抜かれた。

 速い一撃だ。それなりの強者のようだ。だけど避けられないことも無い。

 騎士団長はそのまま斜め下からの斬り上げ、横薙ぎ、と連撃を仕掛けてくるも、俺はバックステップで回避していく。


「激しい攻撃だな。でもここからは俺のターンだぜ。」


 記憶がないのに不思議と相手を倒す技の数々が頭に思い浮かんでくる。その中から一番ふさわしいものを選択して実行する。

 タタン

 騎士団長の手首に一撃、手の力が緩んだところで大剣の腹に一撃入れて叩き落とす。そして……


「参りました。貴殿の実力を某は見誤っていた。」


 ヒノキの棒を騎士団長の喉元に突きつけて決着だ。

 こうしてライルは本戦への切符と雨風をしのげる部屋を手に入れたのだった。

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