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第3話 金策会議は路地裏で。

 日も傾き出した街の路地裏に3人の路銀が尽きた哀れな人影がある。


「金もなく宿にも泊まれない状況だ。何か打開策があるやつはあいるか?」


「それなら私に任せなさい。この魔王様の金策をおつむが足りなくて甲斐性もないクソ勇者に見せてやるわ。」


「待て待て。色々と言ってくれやがったのはひとまず置いておいてやるから待て。」


 フットワーク軽く動き出そうとするマイヤをすんでのところで捕まえて路地裏に引き戻す。


「行動する前に、まずはそのさぞ高等であろう金策を口頭で説明してもらおうか。」


 さっきからの流れを見るにろくな方法じゃないはずだ。


「簡単な事よ。そこら辺にいる奴に路地裏までご足労願って寄付をいただくのよ。髪の毛の先を少し焦がしてやれば喜んで寄付してくれるわよ。」


「却下だ。それは恐喝だ!」


 危うく見ず知らずの人を不幸にしてしまうところだった。


「はいはい! ファフィーもお金を稼ぐ方法を考えたよー。」


 聞いてくれと言わんばかりのファフィーが元気よく手を上げて言う。まさかファフィーからも案が出るとはな。


「聞かせてくれファフィー。どんな案なんだ。」


「ダンジョンに行ってお宝を取ってくればいいんだよ。ファフィーも昔はよくダンジョンからお宝を取ってはお家に持って帰ってたんだよ。」


 一攫千金なところはあるが無難な案だ。


「それはいい考えだ。そうなると、このあたりにダンジョンがどこにあるかから探さないとな。」


 情報を得るとしたら酒場だろうか? しかし、酒代もないから酒場に入る事は出来ないな。戦力は問題ないけど情報収集に難航しそうだ。


「ダンジョンならあそこにあるよ?」


 首を可愛らしく傾げるファフィー。そのファフィーが指差す先には大きな建物があった。遠目からでも分かる高い塀。上品でいて凝ったデザインの壁。柱にも彫刻が施されている。間違いない。


「ダメだダメだ。あれはダンジョンじゃなくてお金持ちのお屋敷だ。お宝はあるだろうけど取ってったら泥棒さんになるぞ。」


 まったくドラゴン時代に何やってたのか聞くのが恐ろしい奴だな。


「私達の案を却下するのならクソ勇者はさぞいい案があるんでしょうね?」


「うーん、そうだな。宿かどこかのお店に頼み込んで働かせてもらおう。そうすれば食事と部屋くらいは貸してくれるはずだ。」


 我ながら無難な金策だ。勤労こそが金を得る最もポピュラーな方法だな。


「はい、ボーーツ。流石はクソ勇者ね。何もわかっちゃいないわ。」


「なっ! 勤労を馬鹿にするなよ。働けばそれに見合った報酬が貰えるんだぞ。これこそ現実的な方法だろ。」


 なんだその馬鹿を見る目は。


「周りを見なさいクソ勇者。そうすれば自分の考えが砂糖菓子のように甘かったって分かるはずだから。」


 俺はマイヤに促されて周りをよく観察してみる。そうすると何人も地べたに座り込んでいるのがわかる。


「もしかして、あの人達は……」


「邪神に家を焼かれて追い立てられた難民でしょうね。彼らとてここで仕事を探したはずよ。つまりはどこもかしこも人手は腐るほどあるって事ね。」


 これは本格的にまずいな。労働案は却下するしかなさそうだ。食料だけなら山にでも入って獣を取ってくればいいだけだが、宿はそうはいかないんだよな。


「お前のその黒いフードを売って金にするしかないか? 元々はマイヤの不注意で店を潰して金を全部使ってしまったんだから。」


「冗談じゃないわ! このフードは身体の一部なのよ。売れるわけないじゃない。」


 ものすごい剣幕で怒るマイヤ。思い出の品なのだろうか?


「ファフィーの胸当てと腰の鎧も身体の一部だよ。ファフィーの鱗で出来てるんだよ。」


「えっ! もしかして身体の一部というのは比喩じゃなくて本当に身体の一部なのか?」


「そうよ。女神のやつがやったのよ。元々は羽と刻印よ。」


「刻印?」


「魔王の刻印よ。魔王になる時に先代の魔王から貰うしきたりなのよ。」


 魔王は魔王で色々とあるようだ。


「となると本当に八方塞がりじゃないか。」


「そこのお三方。お金に困っておるのですかな?」


 ライル達の後ろから老人が声をかけてくる。かなり身なりのいい老人だ。服装からして町人ではなく旅人って感じだ。それも難民ではないようだ。


「恥ずかしながら路銀が尽きてしまいまして。」


「腕に覚えがあるなら闘技大会に出場されたらどうですかな?賞金が金貨100枚らしいですぞ。」


 金貨100枚! それだけあれば旅が出来る。


「それしかないわね。頼むわよクソ勇者。」


「任せておけ。宿のためにも勝つ!」


「私の話が助けになったのならなによりですぞ。それでは私はこれにて。」


 スタスタと意外なほど早い足取りで俺達の間を抜けて去っていく。


「待ちなさいクソジジイ!」


 突然走り出すマイヤ。


「どうしたんだ?あんなに親切にしてくれた人にクソ呼ばわりは良くないぞ。」


「あのジジイ去り際に私の尻を撫でていきやがったのよ。」


 つまり情報料はマイヤの尻で支払われたようだ。路地裏から出た老人の姿は大通りの人混みに紛れて見えなくなってしまっていた。

 何はともあれ光明は見えた。後は試合で勝つだけだ!

 こうして勇者は闘技大会に出場することになったのだった。

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