第11話 ドリュッヘル防衛戦 開戦
「どうもありがとうございます。ご武運を。」
武器屋のおっちゃんが約束通り片手剣を差し出してくる。俺はそれを受け取って調子を確かめるように軽く振る。やっぱりしっくり来ないが贅沢は言えない。なんだかんだでヒノキの棒は重さや切れ味は置いとくにしても、長さはちょうど良かったんだよな。
「ああ、任せろ!」
俺は武器屋のおっちゃんに軽く手を振る。その時コロシアムの屋根に人影が見える。誰だ?
俺は目を凝らしてその人影を観察する。
「あれはマイヤか? あんなところで観戦でもしようってのかよ。」
ふざけたやつだ。
もう仲間なんてアテにはしていられない。俺は再び街の境目の防衛線に向かって走り出した。
街の中を走る、走る、走る。
それにつれて怒声や喧騒が大きくなっていく。
「アレが邪神の軍勢か。」
街のハズレの防衛線、さらにその先にある黒い一団。砂埃を巻き上げながらやって来るそれこそが邪神の軍勢に違いないだろう。
「もう始まっちまうのかよ!」
防衛線の兵士達が弓を番える。剣を持つ者は鞘から抜いて備える。そして最前列には槍を持った兵士達が黒い津波を阻むために矛を構える。
号令
数百もの矢が空を飛び、その黒を縫い止めんと降り注ぐ。
しかし黒い奔流を止めるのには全く足らない。一切の減速なしに最前列に突っ込んでいく。
「嘘だろ。」
激突した直後、最前列の矛が飛んでいく。槍を持った人間ごと空を舞う。まるで奴ら自身が自らを祝うために投げている紙吹雪のようだ。神話の悪魔達がパレードでもしてるかのように、それは一方的だった。
「なんで俺の足はこんなにも遅いんだ!」
おれは自らの遅さを呪う。もしくは武器なんてヒノキの棒でも良かったかもしれない。なんで俺はこんな所を走っているんだ。なんで俺はあそこに間に合わなかったんだ。惨劇は続く。
パレードから狂宴へ。
ある兵士は頭から丸呑みにされた。
ある兵士は無造作に首を引きちぎられて果実のように貪られた。
ある兵士は取り込まれて消化器官で溶かされていく。
吹き飛ばされた槍兵も例外なく食われていく。
兵士達も黙って仲間を差し出していた訳じゃない。しかし彼らの剣は邪神の軍勢を捉えることが出来ない。どれも空を切る。または尾や爪で弾かれる。圧倒的な理不尽が支配していた。
「ヤメロォォオォォ!」
口からはマグマのように熱い怒りが咆哮となってほとばしる。足は一秒でも速く着くために地を蹴る。生命力が気となって身体を昂らせる。
防衛線は既に壊滅まで1歩のところまで迫っている。
「待たせたな化物共。ごちそうさまの時間だぜ。これ以上は誰も食わせねえ!」
ライルは地獄に踏み込んだ。