プロローグ こうして勇者の旅(苦悩)は始まった。
まず感じたのは眩しい光だった。
瞼を閉じてるのに眩しいなんて明るすぎると文句を言いたいところだが背中に感じる柔らかさは極上だから文句を言う口も思わず緩んでしまう。
ここは何処だろう?
瞼を開いて見たのは白一色の景色。それと俺が寝ているベットくらいだ
それにしても頭が重い。脳みその変わりに鉛でも詰められてるのかと思う。
「目が覚めましたか勇者?」
綺麗な声だ。
声の主を探して周りを見回すと、白い光があたりに強く光ったと思ったら少しづつ人の、それも美しい女性の姿になっていく。一糸まとわぬ光そのものの裸体。腰まで届く長い髪も光。光の強弱があるためにパーツ事の見分けがなんとか出来る。俺は立ち上がりそいつと正面から向かい合う。
「あなたは誰なんだ?」
「私は女神ティア。 」
女神ティア。それは世界を作った神であり、最大の信徒を持つ宗教の主神だ。
「俺は…………」
誰だ?名前が出てこない。そもそも何も思い出せない。
「あなたはライル。勇者ライルです。」
「ライルか。なんかしっくりこないな。それに勇者というのもピンとこない。」
「貴方は勇者です。女神である私が決めたのですから。」
とんでもない説得力のあふセリフが来たぞ。記憶喪失男を勇者だというのは問題だと思うけどな。
「お願いです。邪神を倒す旅に出てくれませんか?」
なんとも急なお願いだな。自分すらわからないのにとてもじゃないけど安請け合いは出来ないぞ。
「自分探しの旅を先にしたいのだけど、その後じゃダメなのか?」
「今も無力な民が苦しんでいるのですよ。邪神を倒す旅に出ますよね?」
「自分探しの……」
「邪神を倒しなさい。」
ついに命令なっちゃったよ。拒否することは許されないらしい。
「分かったよ。引き受ける。こんな感じなら仲間も用意してくれてるんだろ?」
同類がいないとやりきれない。
「勿論です。今から呼びます。」
女神はスッと左右に手を広げた。右手と左手の指し示す場所に光が発生したと思ったらそれぞれに人影が現れる。
「ごきげんようクソ勇者。気分はどうかしら?私は最悪よ。」
黒いフードを被った女性が女神の右手方向の光から現れた。とんでもない挨拶だ。最悪な気分というのは同意だけどな。
「その者はマイヤ・ウル・サムターン・バンデモニウス。元大魔王です。」
ナルホドナルホド。
「お兄ちゃんあーそーぼー」
「ゲフゥ!」
見事な跳び蹴りが鳩尾に突き刺さる。
「その元気な娘はファフィー。元邪竜です。旅をするのに不便なので仮の体を与えています。」
元気さを跳び蹴りで表現してくれやがったファフィーの仮の姿とやらは緑の髪に緑の目、顔立ちは幼く、背も童顔相応に低い。幼い子供に見えるがその感想を裏切るようにたわわに実った二つの胸部が動きに合わせてブルンと揺れる。
ナルホドナルホド。勇者の仲間………なのか?
「人選おかしくないか?」
「女神的な灰色の頭脳が導き出した答えです。普通の仲間だと邪神には遠く及ばないのです。」
旅の道程も灰色になりそうなメンバーが最適解なようだ。
「あと1人声かけてあります。私を一応は崇めている大司祭です。」
「大司祭なのに女神を崇めるのに一応とついてるのが不安でしかないんだが。」
「教会なんて腐りきってるのだから権力を傘に来て、弱者から搾取して、贅の限りを尽くしてるようなドブ野郎に違いないわ。」
マイヤが決めつけで断言する。
「力は確かです。彼の支援魔法と回復魔法はここにいる者達と並べても遜色ありません。」
性格面はスルーしたぞ。まともじゃないってことだな。
「お兄ちゃんつまらない。早くお外に行こうよ。」
「暴れだしかねない様子ですね。説明しなくてはならない事もまだまだありますけどマイヤに先に説明してあるのでマイヤから聞いてください。」
ちょっと待って。あることないこと吹き込まれそうなんだけど。信用出来ない説明役なんだけど。
「説明の義務が………」
「行くわよ。ファフィーはお兄ちゃんを引っ張ってきなさい。」
「分かったーー!」
ファフィーが俺の手を取って引っ張ってくる。凄い力だ。龍の力なのだろう。手がもげそうだ。
「勇者ライル。これを持っていきなさい。」
大きくてずっしりとした袋を女神は渡してくる。ファフィーに引っ張られながらもなんとか受け取り、背後にあった光の一番強いサークル引っ張られていった。
「貴方がたの健闘を祈ってます。」
誰にだよ!世界最高の女神に祈る対象とかいちゃダメだろ。
サークルに入った俺達は光に包まれて女神ティアの空間から邪神の脅威に脅かされている世界へと飛ばされて行った。
こうして勇者の旅(苦悩)は始まったのだった。