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オルゴール

作者: 東京 澪音

今日、僕はこの部屋を出ていく。

思えば色々な事があった。


目を閉じてそっと昔を懐かしむ。


大好きだった彼女と過ごした素敵な時間。

永遠に思えた薔薇の様な日々も、今は跡形もない。


二人じゃ少し狭く感じたこの部屋も、一人に戻るととても広く感じた。

彼女の匂いと面影が残るこの部屋に一人でいる事が耐えきれなくなってしまった僕は、部屋を出ていく決心をした。


明け渡しの今日、細々とした物を片づけていく。

しばらく開けていなかったクローゼットに手をかけ、扉を開く。


”コトッ”


いつか彼女が僕に贈ったオルゴールだった。


オルゴールは落ちた拍子に蓋が開き、彼女が好きだった曲が流れ出した。

心地いいその調べに耳を傾けていたが、最後まで奏でることなく途中で力尽きてしまった。


その様は、まるで僕達のようで、どこか少し哀しい様な・・・。


センチメンタルな気分でオルゴールを拾い上げ、僕はゼンマイを巻きそっとふたを開ける。


さっきより力強く曲が流れ出す。

そのメロディーに今一度耳を傾けてみる。

そこには先程の様なもの哀しさはない。


「よし!」


物が全て無くなった部屋は、越して来たばかりの頃に戻っていた。

また誰かがここで大切な人と素敵な時間を過ごすんだろうな。あの頃の僕らの様に。


名残惜しいが玄関で靴を履く。


「そういえばあの曲・・・。」


曲名は、確か・・・エリーゼのために・・・だったかな。

その瞬間、情けに話だが、今更ながらに何故彼女があのオルゴールを僕に贈ってくれたのかに気が付いた。


その想いに、少しでも答えられたかは不明だが、今度はきっと大丈夫。

まだ見ぬ未来の大切な誰かの為に、今度は僕が。


そんな事を考えながらこの部屋に小さく一礼すると、僕はそっと玄関の扉を閉じた。


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― 新着の感想 ―
[一言] 引っ越しの動機に共感できます。 途中で止まるオルゴールに自分たちの状況を重ねる。美しい描写だと思います。 哀しい、センチメンタルなどの直接的な言葉を使わずに感情を表現すると、さらに印象深い作…
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