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宅配!異世界☆ランチ  作者: ほうとう。
8/15

□日替わり:サンダーカウのハニーマスタード焼き

メニューは日替わりが1種類。一律500円(税込)です。

メイン及びサブが2つが基本形態となっております。

ただし、主食はパン・ごはん・麦飯・十六穀米・より選択可能。

パンについては日替わり。金曜日は炊き込みご飯があり。但し品切れの場合はご容赦ください。

スープかプチデザートの選択ができますがこちらも日替わりとなっておりますのでご了承下さい。

当店の食材・調味料に関しましては一切の遺伝子組み替えをつかってはございません。

アレルギーに関しましては、毎日HPにて16品目の掲載をさせていただいておりますのでご参考ください。

購入方法は現在、ネットでのみの受付となっております。

ご注文後、5分以内にお届けしますので、500円を机の上に置いてお待ち下さい。


※+100円追加料金により、スープ・プチフールの両方の注文が可能になりました。また、大盛りにつきましては検討中です。ご了承ください。

※店の性質上、オードブル・デザートの箱詰め等は対応できませんことを連絡いたします。問い合わせありがとうございました。申し訳ございません。






舌に乗せるとわずかにぴりぴりとした刺激がある。

書いてあることの通りなら、ハニーマスタードだろうか。

サンダーな牛とはいったもので、組み合わせが実に計算高い。

加熱した時点で電気が残っているとはあんまり思えないのだが。


本当かどうかは二の次三の次として、実質、非常にファンタジーな感じで自分の目の前に500円玉と引き替えにして出現したものである。

学生時代必死こいて研究していた物理法則とはなんだったのか。

サブに用意されていたのは紫キャベツっぽい色のザワークラフト。そして人参な味のシリシリもどきーーこれは沖縄の郷土食らしいが若干アレンジがかかっているーーとりあえず主食をパンーーしかも本日は全粒粉コッペパンにして正解だった。もう速攻でサンドイッチですよ。

全体的に酸味をもって纏められ、歯ごたえがあり辛味という刺激がある。

あー美味いなぁ。

このボリュームではペットボトルは500じゃ足りない。2Lの買ってくればよかったと反省しながら一飲みしたところでキィと屋上の扉が開いた。珍しい。ここの鍵が開いていることを知っている人間は少ない筈だが。

「あれ?センセ」

「おぅ」

目を丸くしている教え子に軽く手を挙げると不良教師めとぼやかれた。

休み時間くらいフリーダムでいさせろよ。今日夕方から会議なんだよ。

「弁当作ってくれる彼女がいるとは知らなかったわ」

「なんだその幻想」

涙で前が見えなくなるようなこといわないでくださいお願いします。

「店のだよ。知り合いがやってるんだ。いや、正しくはたぶん知り合いがやってる、かな」

曖昧かつ随分とファンシーな物言いである自覚はあった。

結果投げられる目線も胡乱な色を帯びている。

とはいえ子細いう程はないので軽く肩をすくめた。


一つや二つならばたまたま被ったという言葉ですむだろうが、思いで補正抜きにして自分が知り、そしてもう食べられないと思っていた味を出来立てで食えるというならその食事にかけるコストも時間も惜しくはない。

ーー連絡取れずとも、そのまぁ元気でいるならいいんだ。


「センセ?」

「んー?」

「なんかどっかの主人公みたいな顔してるよ」

「ほめ言葉なのかそれは。とっとと飯食え。時間もったいないぞ」

「あぁそうだった」

逃げ出さず、あたりまえのように隣を陣取ったその神経はほめてやりたい。

ただコンビニ飯ってのは寂しいな。

「お前こそつくってくれる人ってのはいないのか?」

「なにをファンタジーいってくださるんですか。かーさんに弁当頼んだら速攻キャラ弁になりますでよ」

「悪かった」

高校生にはちょっとどころか相当ハードだそれは。

ペリペリとサンドイッチの包装をひもときながら味が悪い訳じゃないんですけどねぇ、と美食家みたいなことをいう。

「自分では?」

「学生時代くらい甘えさせてくださいよ。むしろ自分の分だけ用意したら変なショック受けそうで」

「おまえのおふくろさん、そんなめんどくさいキャラだったか?」

三者懇談くらいしか接点はないが、至ってふつうだった記憶があるんだが。

「いつからでしょーね。なんか、ある日突然だった気もするし、実は昔からだった気もするし」

どうにも曖昧な表現を口にして肩をすくめ、それからちょっと迷うように空に指を滑らせる。

記憶に引っかかるなにかからぎこちなくその目を背けて一言そうかと言葉を返した。

ーー考えてみれば一人で営業するのは難しいだろうしなぁ。

「なにか、無くした怖さを思い出したみたいに」

「あぁ」


ーーしってるやつかもしれないよ。その気持ち。

そういう代わりに、懐かしいレモン風味のシリシリだけに意識してかじりついた。



あのね。け細く切った人参をオリーブオイルで炒めて塩レモンで味付け。ちょっとだけ胡椒。これがわたしのレシピ。

それってシリシリじゃないんじゃないか?っつーか卵入ってないし。人参のソテー塩レモン風味的な何かじゃね?別に沖縄こだわらなくてよくね?いや美味いけどさ。むしろ冷めてからもそのまま酒のアテになるけどさ。

あらならいいじゃない、私のシリシリがこれだってだけよ。家庭の数だけ味がある類らしいし

ってそれは単なる最終的ないいわけにすぎなく

いーの。私はコレをそー呼ぶ!もし飲食店を初めてもそれって突き通すからね

それ若干の迷惑じゃね?もはや日本食とは、と悩まされる各国の日本料理店的なアレの理論じゃねーの?

ふーんだ。はい次は鳥の山椒味噌焼き。もも肉と胸肉両方試してみたよー

てかおまえの飯っていっつも酒の為にあるよなぁありがたいけど

自分が酒好きだからねぇ。こっちがキュウリの塩昆布和え。ショウガとごま油がほんのちょっととたっぷりのゴマが入ってるよー

つぉー、ビールたんねー

ばっか、明日も仕事でしょうが

だってー美味いんだもんよー

はいはいありがとねー。あ、そろそろザワークラフト仕込んでおこうーー



「唐辛子でもかじりました?」

「まぁそんなよーなもんだ。気にするな」

お節介な声に肩をすくめる。

ごまかすようにパンごと再びかじりつくが、ため息混じりの声はしっかりと耳が拾ってしまう。聞く気はなかったつもりだにしてもーー

「いい年のおっさんがほろっ、と音もなく涙ひとつながすとか若干ホラーですよ」

「ひでぇな。懐かしい味なんだよ」

「懐かしい?やっぱ愛妻弁当じゃ?」

「ん?いや。うーん、どうなんだろうな」

愛妻弁当がなつかしいとかあまりに悲しいだろう。

悲しい、と思う。

左の薬指を親指でわずかばかりふれてみる。違和感を感じるには馴れてしまった金属の気配。片割れは置いていかれた。今でも仏壇の中でおとなしく台座に収まっている筈だ。

もっとも、いつの間にか取り出した痕跡なく消えていてもーー今は驚かないかもしれない。

さっきすり替わった500円玉と弁当の関係にそう思う。

「あんまり気にしないでくれ。これやるから」

「大人って奴は!なんですかコレ」

「キャロット的ケーキ」

「そりゃどうも。いいんです?」

「用意した水分が足りなくてな。甘いモンはちょっと重い」

そのなぜ頼んだし、って顔はやめてもらいたいですセンセイ。

グレイスがかかってるとは思ってなかったんだよ。

その奥にあるのは、きっと覚えのある味だろうけれどーーいや。彼女のレシピだけとは限らないか。時々、そういうものもある。

「荷物持ちやれとかいわれたら泣きますよ」

「いわねぇよ。むしろ口止め料だ」

「んじゃ遠慮なく」

それだけいって中のカップケーキを指先でひょいぱくと口に入れ、おぉ、と声を上げる教え子の目がキラキラしている。口にあってよかったからーー


頼むからこれ以上変なこと聞いてこないでくれよ。

まぁ店のことなら聞かれたら教えてやるよ。携帯アプリのDLするだけだけど。コンビニで買うより巧くすりゃ安上がりだしなによりおいしいしあったかい。ちょっとした手品もみれるし愉快な品名も見所だ。

「ごちそうさまでしたっ!」

「はやいな」

「美味かったっスもん」

「そりゃよかった」

「んじゃ、図書館いくんで」

「おぅ」

「今日のことはみなかったことにすればいいんですよね?」

どれのことだとはいわなかったがうなづく。野暮だからな。

「ごちそーさまでしたっ」

「はいよ」

ゴミ袋と化したコンビニの袋を持って立ち上がった彼女はスカートを翻して再び扉の向こうに消える。


うん。スイーツを選んでおいて正解だったな。



ちょいちょいフラグが立っているけど別に恋愛話にはならない(宣言

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