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宅配!異世界☆ランチ  作者: ほうとう。
5/15

□日替わり:ロック鳥のオムライス

いつの間にか舞台がシフト

メニューは日替わりが1種類。一律500円(税込)です。

メイン及びサブが2つが基本形態となっております。

ただし、主食はパン・ごはん・麦飯・十六穀米・より選択可能。

パンについては日替わり。金曜日は炊き込みご飯があり。但し品切れの場合はご容赦ください。

スープかプチデザートの選択ができますがこちらも日替わりとなっておりますのでご了承下さい。

当店の食材・調味料に関しましては一切の遺伝子組み替えをつかってはございません。

アレルギーに関しましては、毎日HPにて16品目の掲載をさせていただいておりますのでご参考ください。

購入方法は現在、ネットでのみの受付となっております。

ご注文後、5分以内にお届けしますので、500円を机の上に置いてお待ち下さい。



※+100円追加料金により、スープ・プチフールの両方の注文が可能になりました。また、大盛りにつきましては検討中です。ご了承ください。


□日替わり:ロック鳥のオムライス



「ここの美味いから」

父親の言葉に、あぁ、うん、と返す声はどんな色をしていたのか。

母親がちょっとばかり趣味に旅だったある休日。気軽な男同士もあるし財布に余裕がないわけでなし、適当に食事を各すませるのが慣例だったはずだが、その日の父はわざわざ弁当を用意してきた。

意外だ珍しいと驚くこともそうだが、出前の寿司であるならばともかく、弁当というのは異様ですらある。添えられている使い捨てらしき木目デザインのコップはスープだろうか。ふたに阻まれ予測しかできない。

すわ株にでも手を出したかと邪推こそすれど、本人に後ろぐらいところがあるようにも不思議とみえない。

はて、さてと首をひねるのであるが、適当に麦茶を用意する父は鼻歌交じりのようにもみえる。

つと。

投げた視線の向こうに父らしからぬものをみつけて目を見張るに至った。

世辞にも堅物とはいえないものの、かといって今時に敏感とは呼べぬ男が「モンスター辞典」なる一部の人間だけが好みそうな世には役立たぬ事象と情報を詰めた本が中途でふせっているとなれば眉の一つもゆがむというものだ。

「どうした」

「なに父さん、ゲームでも買ったの?」

さりとて予想ーー適度に思い当たることなど指折りしれず、上機嫌の由来をそうと予測し聞いてみれば父はわずかばかり身内だからばわかる刹那に限ってその目を見張り、ゲームの類には違いないかもしれないな、といささか解読に難しい戯れ言を吐いて見せた。

「なに、実益を兼ねたささやかな遊びでしかない。知るとなおいっそううまいなぁとか勝手に思っているだけで」

どう解釈しても意味が不可解としかいえぬその表現には眉の一つも潜むというもの。

「なにそれ」

「今日のコレがロック鳥のオムライスとあったものでさ」

「ロック鳥?」

はて。自身それなりに新旧ゲームに精通する身として、いかほどこの言葉がおかしいものであるかなど深く考えるものでもない。

幻想生物の中にあっても、特にシルクロードの向こう辺りでは神の領域にその扱いがあるといえる怪鳥の名がなぜオムライスなどというお子さま大好きメニューのひとつとセットで告げられるというのか。

「店のお茶目にしても痛い系だと思うんだけど」

席に着きながらみれば、なんと新聞紙を包装紙の代わりとしているらしい。いや、新聞紙ではないだろう。少なくともこのような手書きにしても読めぬ文字をこれまでみた記憶はなく、さかしま、先の話と併せて察するであればいかにもそのロック鳥という言葉見合うファンタジー世界を演出する為のわざわざ作り上げた幻想の1アイテムとしてのものとみるがふさわしいと思われた。芸が細かく、向かいに置かれた父の分とはデザインが違う。

一般の新聞に載れば抗議必須の武器だのモンスターだのはどれも手書きで成された情報は店の本気を嗅ぎとれるともいいようがあろう。

「その辺りは確かめようもないな。その辺り納得させる手段もあるんだが、もう注文してしまったしなぁ」

「そういえばデリバリなの?なんかバイク音も聞こえなかったけど」

重ねていえば父が出る様子もなかった。

さりとて普段の会話が多い方ではないが、いずこかに出るであれば短時間とてその旨伝えあう程度の理はこの家では習慣化している筈なのである。もちろん、不意の眠り淵に堕ちてその声聞こえず過ごしてしまった可能性も十分にあるのだが。

「デリバリーだがバイクじゃないな。そもそもこんな少量頼むのはいい顔をされないだろうしな」

「まぁそれもそうだ」

値段など知る由もないしそれに関しては父の顔を立てれば決して聞くものではないことくらいは知っている。

それでもどこの店かはわからぬが、臨時の注文として届けるにはいささか申し訳ない量だ。はて、ではいかにしてこの弁当は届けられたであるか。

「とにかく暖かい内に食べよう。勝手にスープにしたがかまわないか?」

「選べるの?」

「コーンスープかバタークリームのカップケーキだったな」

なるほど配慮いたみみる、といったところか。母であれば食いついたかもしれぬが、オムライスの味を思うとスープはありがたい次第のことだ。

「まぁありがとう。お茶まで入れてくれて」

「あぁ。さて」

ここのはうまいんだ。

もう一度同じ言葉で父は笑った。



木目とったがふれれば真に木でできたカップとしれる。それは器にしても同様で、薄いがしっかりした木の箱からそのふたを外すと、濃厚な黄身の色が強く出たオムレツの様が視界を覆った。

ゴクリとなったノドをなぜるのはあまやかな卵の香りとわずかばかりの酸味を纏ったケチャップライスの刺激である。

こちらもついていた木のスプーンで金をつき崩せば紅玉のごとく艶やかな赤がその隙間から顔を出した。

鳥肉ーー店の流儀に興じるであればロック鳥ーーは大振り、単なるトマトケチャップではなく、生のトマトを共に炒めてみせているらしい。タマネギが透明度を伴いまるでローズクオーツのように淡くその色を染めているところに、上に載った濃度の高いケチャップがたらりとそれらを塗り変えていった。

香ばしさを伴った香りと共に米粒とオムレツ部分、そして可能な限りの味わいを1口に詰めてみせれば、わずかな時とはいえ満たされる味わいがその口を満たして見せた。

そしてその楽しみは一度では終わらぬのだ。

かつかつと詰め込まれるメシの様を父が眺める様子はない。

なぜであるならばその父もまた今はこの味わいに服従した同志でしかないからだ。

わずかばかり狭そうに、鮮やかな緑をのぞかせたマッシュポテトらしきものと葉物のソテーがあるのが今更ながらに目に触れた。

どうやら弁当というだけあり添え物もまた無理にでも用意しているらしい。

「この辺のも全部ファンタジーな名前が付いてるの?」

「その辺は適当だなぁ。枝豆らしきもの入りマッシュポテトもどきとほうれん草に近い味のする和風ソテーだから」

「不安しかない」

「遺伝子組み替えはつかってないそうだぞ」

むしろそうであえば呼び名に対する納得もできただろうに、わざわざされる補足にはため息しかもう出ない。

結果口にすれば、いかさま旨いのだからなにもいえないではないか。

塩味を押さえたマッシュポテトにはレモンのフレイバーと酸味が程良く絡み、それがわざわざ一度ニンニクと炒め込んだらしい枝豆を柔らかつつみ、胡椒の主張が後から香る。

和風に恥じぬバター醤油風味のソテーは程良い湯で加減のまだ歯ごたえ残る葉に非常によく合った。これだけでも酒のつまみになるなとも思う。

うまいぞ、としつこく重ねられた言葉の意味も察するというものだ。

「確かに旨いけどさ。父さんの会社の近くなの?このお店」

言い方から察するに、ここで食べれば損はしないと確信しているというのは間違いなかろう。さすればコレは自分に対する自慢なのかーーそんな風に解釈して問いかけると、さぁ?とやはりその回答は曖昧だ。

とてもーー父らしくない。

「たまにはおまえと、わけのわからんものを食うのも悪くないかなと思ったんだ」

巻き込むな、ということはできただろう。

だが聞いたところで手にしたスプーンは止まることなく、濃厚のくせに後味がさっぱりと流れる中華コーンスープの最後一滴まで干すことになったし、店そのものについて問い、その連絡手段を聞くに及んでしまう身にあっては膨れ面すら白々しくなるというものであった。


――そもそも注文理由が「問い合わせしたかったから」というのもよくわからない。


次回もまた唐突にシフト予定

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