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宅配!異世界☆ランチ  作者: ほうとう。
4/15

□日替わり:ホーンボアの角煮

メニューは日替わりが1種類。一律500円(税込)です。

メイン及びサブが2つが基本形態となっております。

ただし、主食はパン・ごはん・麦飯・十六穀米・より選択可能。

パンについては日替わり。金曜日は炊き込みご飯があり。但し品切れの場合はご容赦ください。

スープかプチデザートの選択ができますがこちらも日替わりとなっておりますのでご了承下さい。

当店の食材・調味料に関しましては一切の遺伝子組み替えをつかってはございません。

アレルギーに関しましては、毎日HPにて16品目の掲載をさせていただいておりますのでご参考ください。

購入方法は現在、ネットでのみの受付となっております。

ご注文後、5分以内にお届けしますので、500円を机の上に置いてお待ち下さい。


いつの間にか20時をすぎていた。

さすがに腹減った、とケリのついた画面を眺めながら彼ははぁあ、とため息をついた。

そうしながらも保存は忘れない。

これが消えたらがんばった甲斐がない。

「おわったかぁ」

彼の様子をみてのことだろう。

つきあってくれていた上司がいささかかすれた声で聞いてきたので大きくうなづく。

「よし。飯食って帰ろう。俺は帰る」

「こっちも帰りますよ。データ送っちゃっていいですか?」

「いったんチェックさせろバカ。プリントしてよこせ」

データ上だとみつけられないミスも、プリントアウトすることで気づけることは経験として理解できる。

上司は特にその辺隙がないので素直に従うことにした。待ち時間は惜しいが、クライアントに迷惑をかけて怒られるよりはマシなことだ。

あぁコーヒーでも入れるかな。

あ、タイミングのいい電車あるかな?

ちらりとみた携帯端末。

見覚えのないアプリに手が止まった。

「ん?」

こんなのDLしたか?

弁当配達。HP直通らしきアイコン。

「ん?」

記憶の一部をかすめていったのは先日のすちゃらか女子組が食っていたつっこみどころ満載の弁当だ。

ついでにいうならあれから同期はほぼ毎日、後輩は週1は確実に注文して舌鼓を打っているようだった。やっぱり時々うるさい。

「まさか」

知らないうちにDLというのは正直不気味だ。

正体がわからないというのも意外にストレスを覚える。

だがーー

「上司」

「なんだ」

「弁当、頼みます?」



「ホーンボア?角煮ってことは豚肉の品種かな」

こんな時間だから十六穀米がいいなといった上司に健康志向があることを驚きながら、どんな飯だと今更ながら首を突っ込んでくる。

気はいいが結局おっさんと顔をつきあわせて小さな端末をみるというのは思ったよりも苦痛なんだなと学びながら、二人ともかきたま汁を選択する。主食は白米を選択。

「おもしろいな。選択で。でもこんな時間に届けてくれるのか?しかも二つ」

「同期が頼んだときは大丈夫だったみたいっすよ」

ふぅん、と意外そうな声。実際宅配弁当の基本は事前注文、個数最低限設定、そして人海戦術だ。そういう意味ならアレをみれば意外以上の驚きはあるかもしれない。

「んじゃ送信、と。あ、500円です」

「そうなのか?じゃぁ」

すい、と渡される500円玉。本当に自分の分だけしか払わないとかマジか上司ーーなどと彼が思ったりおもわなかったりしながら机に自分の分と一緒に置き、ちゃー入れてきますといえばおぅ、と疑問には思っていないような返答。

悲鳴のような絶叫が聞こえたのは、湯が沸くのを待ち初めてしばらく経過してからだった。

まぁ驚くよな。

「届きました?」

ちゃんと茶を二人前用意するところまでやって、のんびり問いかけながら戻ると、放心した上司がゆっくりと首肯した。

「んじゃ食いましょうか」

「説明はー?」

「ぶっちゃけ俺もよー知りません」

実は味も知らないといったら怒られそうなのでそっと黙っておく。

うーんうーんと首を傾げていた上司だが、いつもの通りーーそして以前みせてもらったものとは全く異なるデザイン?の新聞紙のつつみを取り上げ渡すと素直に受け取った。

スープケース、箸。おそるおそるといった手つきだったが、どうやら空腹が勝ったらしい。飯か。とずいぶん感慨深げにつぶやいた。

新聞紙を回収しながら(一応後輩ちゃんにあげるつもりだ)適当な机で並んで上司と同じ飯を開く。そういえばどちらがどちらの主食であるか一切確認しなかったが、うまく行き渡ってくれたようである。

メインは動物系モンスターっぽい肉の角煮。タマネギのスライスでできた布団の上で、てりってりの焦げ茶が蛍光灯の輝きを浴びてキラキラと光る。

サブの一つは昆布ほか野菜たっぷり入りの煮豆。キャベツの塩昆布あえ。昆布かぶってるんだけど買いすぎたのか?

「お、皮もある。ラフテーに近いのかな」

「沖縄の角煮っしたっけ?」

しかし量、けっこうあるよな。そう思いながら箸をつける。沈む、だと。

「肉が、やわらかいっ」

「すごいな、口の中に入れたら繊維がふんわりとほぐれていく。あぁ底に敷いたタマネギのシャキシャキに絡まったタレがまたたまらん!」

「煮豆柔らかいなー。けど味がしっかりしてる。細かく刻まれた野菜やキノコや昆布があぁ芳醇なうまみを口の中で満たしてくせいで茶が美味い」

「キャベツの塩昆布和えも落ち着いた味わいでちょうどいい歯ごたえも残っているな。鷹の爪を混ぜ込んでいる?ほんのりとピリ辛なところがまた甘めの肉にあるしつこさをカバーしているな」

「あーごはんおいしい。大盛希望するあいつの心情今になって理解できるわー」

「てか結構ボリュームあるんだが、おかわり希望するのか、あいつ」

「そうなんですけどね。あー、スープは鶏ガラかな。ほんのり中華風に水菜うまー」

本当に水菜かは怪しいけれどな。

内心でこっそりうそぶく。誰にいうでもないが。

「うさんくささに味は付属しないんだなぁ」

「まぁ味付けにはならないでしょうね」

食って見せる上司はずいぶん太いと思う。腹周りじゃなくて神経が。

「怪しいってのも使いようによっちゃ便利なんだなぁ」

確かに。

美味いんならまぁもうなんでもいいや、って思うところがあるのが不思議だ。でもまぁわざわざ毒のある河豚を命がけで食らう民族だもんなぁそういえば。

「この技術があれば機密文書とか受け渡し楽なのになー」

「そんなトコまで社畜らないでください泣けてくる」

「晩飯こんなトコで食う時点で十分その才能は覚醒してるさ。っし、書類チェック問題なし。4カ所誤字直したら終了だ」

「ながら飯すると太るっていいますよ」

「その倍ストレスで痩せてるさ」

なんスかその女子の敵・・・・・・なのかな?

「それにしてもメシが美味いっていいな。ここ大量注文も受けてくれるのかな?」

「どうでしょうね。なんか頼みたいんスか?」

「いやお花見とか楽そうだな、と」

なるほど、と思わず手を打った。

確かにそろそろ季節だ。うちの部署恒例でもある。

ここでオードブルが頼めればちょっとした余興にもなるだろう。

どこか緊急連絡先がないかとアプリを再度確認するが連絡メールアドレスのようなものはみあたらない。

あいつらにも聞いてみるか。そう考える彼は気がつかない内に今回の幹事枠に納められていたのだがーー

好奇心というのは意外と人を動かすのだ。


「連絡手段なら、何度かつかってる方法があるけど」

翌日。休憩がてらの時間に同期に声をかけたら思わぬ回答が待っていた。

「それは?」

「500円玉にメモを張り付けておく」

「ちょっと待て」

「2つ頼んでても1000円札はダメみたい。だから添えてみたんだけど、のっけるだけじゃだめだったわ。メモだけのこる。しかしながら付箋でくっつけたら向こうにはちゃんと回収されたみたいね。次の注文の時に回答がきたわ」

微妙なくっつぎ具合。

「ちなみに文字は?」

「こっちの」

ゴクリ、と自然のどが鳴った。

奇妙な緊迫感が彼を襲ったからだ。

HPでしっかりとした日本語を操っていたのだから、当たり前とも思える反面でーーやはり、違和感のようなものがある。

「いったい、どんな店なんだか」

「それは気になるけど、野暮ってもんでしょうね」

「野暮か」

いわれれば、まぁそうかなとも彼は思った。

「んで、どんなメッセージ送ったんだ?おまえは」

「課金でかまわないからスープとデザート両方頼めるようにしてください」

「回答は?」

「前向きに検討します」

あ、これあかんやつやーーとか思ってたのだが。


昼休み。

「いやったぁああああああああ」

「うるさい」

「いやいや。だって要望通ったんだよ!」

ほらほら、とみせてくる同期の手元には彼もみた覚えのある画面。

だが下の方に但し書きが増えている。


※宅配担当のレベルが上がったため、+100円追加料金により、スープ・プチフールの両方の注文が可能になりました。また、大盛りにつきましては検討中です。ご了承ください。


「れべる?」

「あれ?そこ気にする?」

わかってるよ野暮っていうんだろ。


れべるがあがった!

いままで2個分はそれぞれ1度づつ届けてくれていたことが判明したね!(えー

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