□ソードフィッシュのフライ
オヒサシブリデス
なのになんか世知辛いです
高校にももう一つ「ルート」があるらしい、ということを上司が言い出した。
今のところ、こちらが把握しているのは同僚からのものと社長からの2ルート。
てっきり高校のルートは上司からの派生かと思っていたのだが、それとは別にどうやらもう一つのルートがあるらしい、ということがわかった。
クライアント待ちの行動できない無駄な時間。
果たして有意義なのかちがうのか、確信の持ちにくい会話の大半は実のところ表現方法に費やされていた。
だって感染じゃあんまりにもあんまりだろう、と。然り。
少なくとも食い物についての言い方ではない。
逆を言えばそんなことを話し合うくらいーー暇だったわけである。
「厨二的に攻めるなら大本がオリジン、以下感染、もとい利用者がチルドレン、みたいな」
「いい大人メインでそれを高校生に伝えられるか?お前」
「精神的キャパシティ的に無理です」
思いついた自分に同情するレベルですね。
威張ってまでいうことじゃないと思うのだが。
「なぜ言った」
「上司ならやってくれると信じて」
「そりゃぁどーも。だが断らせてもらう」
どうも説明しようとしたり、カテゴライズしてしまおうと考えるのは大人の悪い癖である気もする。
特に身内で不思議だなぁとか言ってるで済む範囲なのだ。
提唱が決まったところで意味は全くない。
「そうっすか。それにしても社長と同僚の共通点からのアプローチ、難しいですかね」
「いっこだけ見当ついてるが、確認するには少しためらってるのが現状」
今までだれもが首をひねって終わっていた話を、いきなりもしかしたらの範囲とはいえ示唆したことはこれまでなかった。
しかもだいぶ確証をもって聞こえる。
どういうことだーーと目線で問えば、爆弾落としたはずの当人は肩をすくめて言葉を濁す。
「本人たちのプライベートだからな。俺だって上司と部下っていう二つの立場でなきゃ気づかなかったし結びつかなかった。ちょっと高校の方も息子に探らせる。そこでオリジンだったか?ソレの共通点確信持てたら教えてやるが、後輩にはいうなよ。彼女にもだ」
「調べたこと自体が怒られそうな話だしオリジンいうのやめてください思った以上になんかダメージ受ける」
少なくとも上司としてはそれを心配している、ということだろう。
それほどはっきりとしたプライベートなのかと思えば知ることも少々後込みする。
今の間際まで興味だったものが、あっという間に底なし沼のようにも見えるようになるのはなかなかない経験だ。
ついでに自分が適当言った言葉への責任マジ怖い。
「で、後輩ちゃんに言うなってのは?」
「ありゃ顔に出る」
「ア、ハイ」
そりゃだめだわ。
「ただの弁当で騒ぎを大きくする意味はないだろ。うまけりゃいいんだよ」
結局はそこになるのだろう。
正直同感でもあったので大きくうなづいた。
「まぁ今日も旨かったんで」
「そうだな。川海苔の天ぷらは香りがよかった。正直飲みたいと思わされたよ」
「保温機能万歳ですよね。しかもサクサク感が損なわれないという罠。保温てよりいわゆる時間停止なのかな?いやでも納豆できたっつーし」
考えても仕方ないだろうけど。あぁでも川エビの炊き込みご飯がまぁかみしめるとたまらん味わいだった。豆乳入りの味噌汁、俺家でもやるようになりましたよ」
じっくりと昼に味わった飯の話になるが、思えば普通の川エビはぶつ切りしようと思えばミンチと変わらないーーということを彼らは知らない。
「メインの魚のフライはほろりと崩れながらも味が舌に残ってタルタルソースによく絡んだ。えーっと何の魚だったか」
パラパラと職場にはあまり似つかわしくないファンタジーモンスター辞典を開きながら首を傾ぐ。さすがになじみのない単語をそうそう一発で覚えられないお年頃だ。
日付をメモをしてあった付箋と共に、記憶を取り戻す。
「あった、ソードフィッシュか。鮭っぽくもあって鰈ぽくもあって」
名前だけは太刀魚とは違うみたいだけどそもそも味が全然違った。
「臭みがぜんぜんないのは下処理ですかねー。後輩ちゃんがバーガーにしてたのも旨そうだった」
「パン用のトマトとレタスのサラダだったんだろうな。揚げ卵も。てかレタスじゃないのか。あのキャベツとレタスの間みたいな奴」
「前にロール葉物で出てきたの、結局名前わかんないままですもんね。きゃたす?」
「えー」
なんだソレ、と笑う上司は若干自棄を残している。
名前を付けたがるのはどうなのかって話をしたばかりだというのに。
「それにしても下らない話してるなー」
「クライアント様から連絡ないですからねー」
盛り上がる話するにも、別の仕事をするにしても微妙すぎるからと結果無駄に待たされるのもよくあることと思うしかない。
ただ例の店に関わる前だったらこんなささやかにして脳天気な会話にはならなかっただろう。
もうちょっとまじめか、もしくは話自体がとぎれていた。
くだらない話でも、笑えるのは支えかもしれない。
「あぁはよ帰りたい」
「さすがに2回連続で同じのはいやだしな。遅くなるとわかってるなら昼もっと適当にしておいたのに」
本音を隠そうともしない部下に、打ち解けたと思っていいのかちょっとグダりすぎているぞと説教かますべきなのか。
非常に判断が難しいところだ。
「晩飯に夢をみましょう。揚げ物だったからあっさり系?」
「おまえ若いのに情けないこというな」
「情けないいわんでください。この時間になるといくら若くてもきっつい」
「そんなもんか」
「そんなもんです」
「そんなもんだったかなぁ」
自分が若かった頃の話。
「知らんがな」
あ、やっぱ説教しておこうかと思ったところで電話が鳴る。
「はい」
待望にして怨みの大本。そして一つの事案に帰宅時間を削られた同志でもあるご連絡である。
手早くやりとりをしながらもすでに下準備を始め、ダレた空気は一蹴される。
帰るぞ、という空気が彼らの絶対たる原動力なのだ。
***
数年前。
とある事件があった。
いや、事件なのか事故なのか。警察の発表では事故。
だが多くの人間が納得できない「事件」。
それはそんな立ち位置の「出来事」。
損害は大きく、原因は曖昧。
被害者の多くが若い女性だったこともあり、報道は大々的だったが中身がなく、その出来事よりも被害者のことを随分と頼まれてもいないのに掘り下げられたものだ。
結果、下世話過ぎる偏った報道に視聴者が嫌気を抱き、苦情が殺到。
「事件自体」の報道が制限されたーーそんな、「よくあるできごと」。




